Sym's BALLET「ロミオ&ジュリエット」

東京シティ・バレエ団の志賀育恵には以前から注目しており専門誌紙に何度も評を書く機会にも恵まれた。柔らかな身体のラインを生かした踊りはいつみても小気味いい。ここ数年はバレエ団のプリマとしての地位を確固たるものとし、昨年は『カルメン』『白鳥の湖』『くるみ割り人形』のほかモダンダンスの野坂公夫振付『曲舞』にも主演、その才能を遺憾なく発揮した。「オン・ステージ新聞」の新人舞踊家ベスト1など舞踊賞も獲得。いまが旬のバレリーナといえよう。志賀は今年9月から1年間オーストラリアへ在外研修に行く。その前の最後の舞台となるSym's BALLET公演にも彼女のファンや関係者が数多く駆けつけた。
畠山慎一の構成・演出・振付による『ロミオ&ジュリエット』は、志賀をはじめ多才な踊り手を集め、なかなか興味深い舞台に仕上がっていた。立ち上がりはやや説明に終始し、いまひとつ盛り上がらない嫌いはあるものの原作をうまくまとめている。バルコニーの場以降は引きこまれた。
志賀の踊りはほとんど完璧。とくに伸びやかなジュテや力強いバットマンには息を呑むほかない。だが、今回注目すべきはその演技。可憐な少女から恋を知り大人へと変貌を遂げるさまを心のこもった演技で魅せた。この人は正直にいって器用なタイプではないと思う。小手先の演技や顔芸に走ればそれらしい演技は誰にでもできる。でも、志賀はそれに走らない。その場、その時に沸きあがる感情の振幅をダイレクトに伝える。今後、演劇性を必要とする役柄にどんどん挑めば、よりそのドラマティックな資質を伸ばすことが出来るだろう。研修の成果に期待したい。
ロミオ役・マイレン・トレイバエフも王子然とせずどこか無骨ではあるものの真摯な演技に心打たれた。マキューシオの中川賢、ティボルトのGORIらも異色の存在感を発揮。ヒップホップの動きなども取り入れた群舞も迫力はあった。
廣田あゆ子振付『The Color of recollection』はコンテンポラリー風、畠山振付『硝子の月』はクラシック風、それぞれ語彙の並べ方などに工夫の見られる創作だったが、スタジオのダンサー中心らしく踊り手の水準がやや寂しいのは否めないか。刺激的な創作バレエの創造は難しい。今回のリサイタルの創作は、いずれも随所に苦労のあとが忍ばれる。厳しい道のりだが創作に意欲を燃やす姿勢には共感したい。
(2007年8月2日 なかのZERO大ホール)