盛況の来日公演

夏の東京は例年のごとく大型公演が目白押し。3年に一度のお楽しみ「世界バレエフェスティバル」はお休みだが来日公演が続く。7月にオーストラリア・バレエ団がグレアム・マーフィー版『白鳥の湖』、スタントン・ウェルチ版『眠れる森の美女』という異色作を上演。ニーナ・アナニアシヴィリ率いる「グルジア国立バレエ」は『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』を上演した。8月にはいると、イタリアの名花アレッサンドラ・フェリの引退記念興行も行われた。今後もマニュエル・ルグリとパリ・オペラ座バレエの精鋭によるグループ公演、マリインスキー・バレエボリショイ・バレエの合同ガラ公演も行われる。
居ながらにして世界のトップレベルのダンサーたちの演技を目にすることのできるのは嬉しい限り。出産を経てのニーナ・アナニアシヴィリ3年ぶりの来日公演は多くのファンの熱狂を呼んだ。ニーナはやや肉が付いた印象だが齢を重ね、成熟した演技が評判。降って沸いたような企画にも思われたがフェリの引退興行もフェリをはじめジュリー・ケント、アリシア・アマトリアイン、ホセ・カレーニョ、ロバート・テューズリー、アレクサンドル・リアブコら人気・実力とも一線級が揃った。フェリの爽やかな燃焼は多くのファンの目に刻みこまれたことだろうし、エレガントな魅力が深まったケントや奥行きのある演技のリアブコらの人気も高かった。フェリのパートナー、ロベルト・ボッレの株も上昇。
スターたちの饗宴に目を奪われるが、プログラムとしても充実した公演が増えている。オーストラリア・バレエ団の2演目は古典の大胆な新演出で目の肥えたバレエファンを驚かせたし、フェリの引退興行もバランシン、アシュトン、マクミラン、ノイマイヤー、フォーサイスからシュプック、ウィールドンら現代バレエのレパートリーが並び興味深い(世界バレエフェスは以前からそうだが)。ルグリ公演やマリインスキーとボリショイの合同公演も多彩なラインアップに期待が持てそう。
観客の求める水準は高くなってきている。内容はもちろん入場料に関しても。いくら一流のものでも料金が明らかに高いものは以前ならいざ知らず、最近では売れ行きは芳しくない。いっぽう、内容はよく良心的な公演であっても、コアなバレエファンには評判いいが広く訴求できないものもないわけではない。そこは難しいところで、興行でありつつ芸術を扱うわけだから常にせめぎあいがあることだろう。観客=消費者もしっかり選択眼を持ち、意思表示していくことがより求められるのはいうまでもない。