アキコ・カンダ作品選〜夢、紡いで〜

アキコ・カンダの舞台といえば、『バルバラを踊る』シリーズや新国立劇場に委嘱された『マーサへ 空のなか 愛がふれあう時』などを思い浮かべることができる。一途なまでにストイックな世界。1950年代にマーサ・グレアムに学び、帰国後も精力的に創作を続けてきた。アメリカンモダンダンスを日本人の感性で磨きあげたピュアで奥深い舞台に接するたび心洗われる思いがする。
今回のリサイタルでは、元宝塚星組のトップスターで退団後も多くの舞台で活躍する峰さを理をゲストに招いた。峰は、ロドリーゴ曲による「暁の祈り」ではカンダ門下の踊り手たちとともに踊り、高度な振付をうまくこなしていた。「愛の旅立ち」「インシャラー」では艶のあるボイスを披露、カンダ門下の踊りを盛り立てる。カンダはソロ『実生(みしょう)』において、白のドレスに身を包み、禁欲的ながらも地に足の着いた踊りみせた。圧巻は、峰の唄にあわせカンダが踊る「黒いワシ」。老境に達した作家は、黒のロングドレスの端を両手で持ち、ひたすらに、ただひたすらに羽ばたく。それは、年輪を重ね、純粋なまでに無の境地でダンスに向き合うカンダの生き方と重なる。求道者の厳しさを漂わせながらも、より強く、より前向きに生きたい、という姿勢がひしと伝わってきた。
市川紅美を筆頭とする門下のダンサーたちもよく訓練され、整然としたアンサンブルが見事。加えて、ユニゾンであっても、個々の表現、表情は微に細に異なっている。錬度の高さに加え、奥深い表現力を兼ね備えているのはモダンならでは。カンダとカンダ門下はひとつの舞踊集団として統率がとれ、ゆるぎない独自の美学をもっている。ひさびさに手ごたえのあるダンスを味わうことのできる会だった。
(2007年9月29日 青山円形劇場)