バレエTAMA・プティパの遺産vol.2『ドン・キホーテ』全幕

2月3日、日曜日、雪が降り積もるなか、西東京は小平までバレエTAMAドン・キホーテ』を観にいく。昨年、ロシア国立バレエ団の千野真沙美の構成:演出によってロシア・バレエの隠れた名作を上演した「プティパの夕べ」に続く《プティパの遺産》シリーズの第二弾。主演が、いま、まさに絶頂期にはいった島田衣子(井上バレエ団)とフリーで引く手あまた、新進振付家としても活躍する石井竜一であり、楽しみにしていた。
演出・振付は、松山バレエ団で踊り、ルドルフ・ヌレエフを尊敬するという淺野正。プロローグ、ドン・キホーテがドルシネア姫を探して旅に立つ下りを丁寧にみせる。少々長くも感じはするが、プティパ初演版でも随分長かったという記録があるようなのでそれに倣っているのだろう。全体としては踊り、芝居の流れをよくし、初めてこのバレエを観る観客にも分かるようにしようという意図が感じられた。島田はキトリ役を全幕で踊るのは初めてのようだが、溌剌とお転婆娘ぶりを発揮して好演だったと思う。島田は全幕バレエでは自分に役柄を無理なく引寄せ、ナチュラルに演じるのを得意とするが今回もそう。石井も好青年ぶりをみせた。谷桃子バレエ団退団直前にバジル役を踊っており、彼にとっても一際思いいれのある役だったようだ。グラン・パ・ド・ドゥの出来はなかなか見事で、島田の明晰で安定したパの運びは安心してみることが出来る。石井も自信を持ってリフトなどサポートをこなし、ヴァリエーションでも力感漲る演技をみせた。森の女王の若林美和(東京シティ・バレエ団)の演技からは一生懸命さが伝わってはきたし、エスパーダの菊地研(牧阿佐美バレヱ団)も元気なところをみせた。第2幕、森の場ではコール・ド・バレエに一層の安定感、統制感が欲しかったけれども、TAMAのメンバーも、主役カップルの活力あふれる演技に引っ張られ、精一杯の踊りをみせていた。
多摩地区といっても範囲は広いが、各スタジオが集合し公演することにどういった意義があるのか、改めて考えさせられた。各スタジオではそれぞれに発表会等は催しているが、生徒たちが大人の、一流のダンサーと同じ舞台にたち全幕バレエを創りあげる機会はそうそうあるものではない。ジュニア世代が教室の枠を越えて共演するのもいい刺激になるはず。無論、コンクール出場で武者修行という手もあるが、「舞台で若い踊り手を育てる」という姿勢がひしひしと感じられたのが素晴しかった。15年近く、毎年継続して活動している熱意には頭が下がる。島田は、多摩の今田バレエ研究所出身、今をときめくトップスターだが、第二、第三の島田が出てくることを期待したい。
チケット料金も毎回良心的で、比較的気軽に足を運べる設定。ジュニア世代の踊り手たちの育成、発掘はもちろん地域における文化の振興、普及に貢献している点も見逃せないだろう。小さな各スタジオが手に手を取り合って利害を超え、互いを支えあいつつバレエ文化の発展、向上を一心に目指しているさまに非常な感銘を受けた。
(2008年2月3日 ルネこだいら大ホール)