旬のスターと今後の展望

発売されたばかりの「クロワゼ」に、いま旬のダンサーたちが取上げられている。しかも、個人的にも注目している人揃いなので、簡単にその魅力に触れておこう。
表紙を飾り、「ダンスが一番!」のコーナーでインタビューを受けているのが瀬島五月(貞松・浜田バレエ団)。海外で活躍後、現在は関西を中心に活動している。『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』など古典作品に主演するほか、昨年、東京でも披露された、オハッド・ナハリン振付『DANCE』(『マイナス16』の改訂版)冒頭の即興ソロも記憶に新しい。派手なテクニックや突出したプロポーションを売りにする人ではないが、技術、表現力、音楽性のバランスを欠くことなく堅持しつつ、つねに高めている点に底力を感じる。そして、今を盛りと咲き誇る花のような、キラキラしたオーラがなによりも魅力的。長身でメイクも映え、舞台栄えがする。古典作品に創作、コンテンポラリーに活躍し、踊るたびに新生面を切り開いていく姿には興奮を禁じえない。国内の若手には払底している、人をひきつける華を持った数少ないプリマといえる。ちなみに振付にも才を発揮。
インタビューを受けているひとりに志賀育恵がいる。東京シティ・バレエ団のプリマとして活躍し、バレエ・ファンや関係者の間で熱い支持を得ているバレリーナ。上半身の柔らかさが特徴といえ、無理のない精確なポジションを保ち、そこからきれいなラインを生み出している。『コッペリア』のスワニルダや『くるみ割り人形』のクララでは、明るく愛らしい演技もあいまって魅力がいや増す。『ジゼル』や『カルメン』のタイトルロールなどドラマティックな役柄にも挑み、表現の幅をひろげつつあったが、現在、オーストラリア・バレエ団で研修中。レパートリーが多岐にわたり、公演数も多い環境で学んでいるようだ。より大きく成長した姿で再見できることを期待するファンは少なくないだろう。
「私のウェア・ストーリー」に登場する西田佑子にも要注目。関西で活躍後、現在フリーとして活動している。精確なテクニックの持ち主にして、華奢で美しいプロポーションに恵まれている。アプロンが完璧なためであろう、どんな姿勢でもバランスを崩さないのには「凄い!」のひと言。関東圏ではまだ知名度が低く、全幕主演の機会に恵まれていないが、引く手あまたになることは間違いないだろう。キミホ・ハルバート西島千博の作品にもでているが、創作、コンテンポラリー作品での力量に関してはまだ未知数。しかし、無尽蔵の可能性を秘めているともいえ、その動向から目が離せない。
インタビューコーナーに出ている青木崇(大阪バレエカンパニー)は関西では超有名。名古屋の大手バレエ団にもゲストで主演するほか、今年は日本バレエ協会公演でも主演しており、関東でもブレイクするだろう。回転、跳躍など抜群のテクニックを誇り、それがダイナミックな表現に結実している。男性ダンサーの需要は相変わらず高いが、若手陣は総じて小粒な感は否めない。が、青木やナハリンの『BLACK MILK』における鮮烈な演技で芸術祭新人賞を受けた武藤天華(貞松・浜田バレエ団)、新国立劇場の『カルメン』に招聘され本島美和と組んでホセを踊る碓氷悠太(松岡伶子バレエ団)、全幕主役デビューはまだであるが実力は折り紙つきの清瀧千晴(牧阿佐美バレヱ団)ら活きのいい逸材が登場しているのは頼もしい(若手プリマに関しては機会を別に譲る)。
80年代後半から90年代には、男性陣だと坂本登喜彦、大寺資二、高岸直樹、貞松正一郎らに加え、熊川哲也、小嶋直也、久保紘一、森田健太郎、逸見智彦、佐々木大、法村圭緒らがデビュー、女性では、森下洋子や川口ゆり子、大原永子、安達悦子、越智久美子、大畠律子、柳瀬真澄らに加え、吉田都、下村由理恵、高部尚子、草刈民代佐々木想美、齋藤友佳理、吉岡美佳、井脇幸江、田中祐子、宮内真理子、志賀三佐枝、渡部美咲らが綺羅星の如く活躍した(いうまでもなく、現在も第一線で活躍、後進の追随を許していない人が多い)。そんな黄金時代はそうそう訪れないだろうが、新たなスターたちの誕生、躍進の予感は感じられる。スターとは、生み出す(出せる)ものではなく、生まれるもの。しかし、劇場に「観客の熱」がなければスターは生まれない。温かく、ときに厳しく若い才能たちの芽を摘むことなく応援していくことが大切だろう。


Croise (クロワゼ) Vol.30 2008年 04月号 [雑誌]

Croise (クロワゼ) Vol.30 2008年 04月号 [雑誌]