アキコ・カンダ『風の追憶』

アキコ・カンダ モダンダンス公演『風の追憶』を観た。
モダンダンスといってもカンダの場合、いわゆる現代舞踊=ジャパニーズ・モダンダンスとは趣が異なる。渡米しマーサ・グレアムに師事、そのカンパニーで踊った経験を元にアメリカン・モダンダンスのエッセンスとカンダの感性を融合させた独自のもの。長年のファンも多く、老若男女幅広い客層を誇るが、宝塚歌劇団の舞踏講師や振付を担当、新国立劇場バレエ研修所でもコンテンポラリーダンスを指導していることもあってか客席には演劇、バレエ関係者の姿も少なくない。今回は新作を含めた3つの小品と2005年に発表した「彼方へ」の最終章にあたる「風の追憶」を上演した。
カンダの踊りを観ていると、いつも心洗われる思いがする。彼女が無心に音楽と戯れ踊るだけで涙が出てきそうな感動を覚えるのはなぜだろうか。思うに、彼女は舞踊の原点、人間の自然な欲求である憧れというか「〜になりたい」という想いを誰よりも純粋にうつくしく表現できるからだろう。彼女が虚空にそっと身体を差し出すと風の音が聴こえ、ひたすら羽ばたくと鳥の羽ばたきとなる。観るものはそこに自身を重ね、生命や自然のうつくしさ、いとおしさを感じて胸がいっぱいにならざるをえないのだ。
無我の境地で想念を踊りきることのできる舞踊家は、決して多くない。いや、なかなか到達できないというべきだろう。そのためには、技巧をみせたい、自分をよくみせようという欲を拭い去らないといけない。容易ではないはずだ。長い経験と凡人には想像もつかない苦闘と研鑽の末に得たものなのだろう。ひたすらに、ただひたすら純粋に無心で舞い踊り、観るものに深い感動を与えるカンダは至高の境地に達した稀有の存在。
一度は必ず観ておきたい芸術家といえる。
(2008年9月19日 青山円形劇場)