維新派『呼吸機械』

大阪を拠点に野外劇を上演し続けている劇団維新派。今回は滋賀県長浜市の琵琶湖畔に設えられた水上舞台での公演だ。北陸本線田村駅から少し歩くと仮設の劇場が見えてくる。すぐ側には維新派野外公演では恒例の屋台村。タイ風炊き込みご飯や熱々の豚汁などを求め食しつつ開演を待つ。傍らでは大阪の異色ユニットcontact Gonzoがパフォーマンスを行って観客を楽しませている。殴り殴られつつ触れ合うという、ガチなのか児戯なのかよくわからないおバカなことをする野郎どもだ。
会場時間になり仮設劇場に足を踏み入れると、なんとステージが湖の水際まで伸びている。文字通りの水上舞台。今回は<彼>と旅する20世紀三部作#2ということで欧州を舞台にしたものらしい。レジスタンスやナチススターリン主義といった20世紀の欧州の歴史が語られ、カインとアベルをはじめとして聖書から名を引用されたと思しき少年少女たちが時空を越え自在に旅する。維新派といえば「ヂャンヂャン☆オペラ」とよばれる、ラップのような独特の台詞とも歌ともつかぬものを発しながら集団でパフォーマンスすることで知られる。今回も台詞は少なく、パフォーマンスに傾斜した創りだ。圧巻は終幕。舞台の上にどこからともなく水が溢れてきて、その上で少年少女は繰返し、繰返し横たわっては跳ねる。やがては舞台と湖が同化していく――。
過去に観た維新派の舞台のなかでも特に感動的だった。場の魅力が最大限に活かされている。巨大な汽車、廃墟といった舞台美術も圧倒的。ただ、舞台上に展開されるイメージの数々のうちに、ワイダやアンゲロプロスの映画から引用したと思われるものが散見されたのは気になった(『灰とダイヤモンド』や『旅芸人の記録』『ユリシーズの瞳』などなど)。でもオマージュとして許容できる範囲かな。維新派のパフォーマンスに対して「ダンスか、あるいはダンスではないか」との議論があるけれども、今回あらためて思ったのは、どうでもいい、ということ。音と台詞と動きと舞台美術、そして場の特性などさまざまの魅力が溶けあったところに維新派の舞台の面白さがある。それを狭義にせよ広義にせよ「ダンス」という枠で取り上げても仕方ないように思う。
(2008年10月9日 滋賀県長浜市さいちか浜 野外特設劇場<びわ湖水上舞台>)