新国立劇場バレエ団『ライモンダ』

新国立劇場バレエ団『ライモンダ』
振付:マリウス・プティパ
改訂振付・振付:牧阿佐美
ライモンダ:川村真樹
ジャン・ド・ブリエンヌ:碓氷悠太(松岡伶子バレエ団)
アブデラクマン:冨川祐樹
(2009年2月15日 新国立劇場オペラ劇場)

男性ノーブルダンサーの不在を嘆く声は少なからずあるが、ここ数年、逸材が次々に出てきている。なかでもしっかりしたテクニックを備え、かつスター性もあるという点では、名古屋を拠点に活動する碓氷悠太が現在次代を担うエトワール有力候補に思う。
4,5年前、私用で名古屋を訪れた際に運よく観られたさる公演にて、眉目秀麗にして端正な技量を誇る青年に思わず目が行った。それが碓氷との出会い。07年松岡伶子バレエ団『くるみ割り人形』王子役で初主役を務めた後、08年新国立劇場バレエ団『カルメンby石井潤』ホセ、松岡伶子バレエ団『眠れる森の美女』王子役と主演を重ね、その舞台を追って観続けることができた。たたずまいに独特の風情があって、決して派手な技巧をみせたり、大仰な芝居をしなくても観るものの目を自然と惹きつける磁力のようなものを持つ得難い踊り手。今回も長年のコール・ド・バレエ経験を経て大輪の花を咲かせつつある川村真樹とともにフレッシュかつ完成度の高い演技をみせ主役の任を無事に果たした。気負いなく跳躍や回転技を決め、サポートも向上。何よりも表現力に秀でている。第一幕、夢の場において川村演じるライモンダの腕にそっと口づけをして、思い立ち難くとも後ずさりしていく所など細かな所作にも誠意がこもり胸打たれた。
碓氷と川村にはある共通項がある。碓氷は名古屋の松岡伶子(大寺資二や大岩千恵子らを輩出)、川村は盛岡の黒沢智子(英国ロイヤル・バレエ ファーストソリストの佐々木陽平らを育成)の門下。そして、松岡、黒沢は谷桃子の門下であり、初期谷桃子バレエ団において活動をともにした。すなわち碓氷・川村は谷の孫弟子に当る。谷は言わずと知れた、日本バレエ界が生んだ最大のプリマのひとりであり、先日米寿を祝う会が行われた。その席で、Kバレエカンパニー主宰の熊川哲也が祝辞を贈った際、谷が日本バレエの第一世代であれば自分は第三世代であると述べていた。日本バレエのパイオニアのひとり谷の孫弟子が、同じく日本バレエ黎明期からの功労者・橘秋子の子女であり、古くから谷と親しく交流してきたという牧阿佐美の演出・振付による『ライモンダ』の主役を“バレエ人の夢”であった国立オペラハウスの公演において務めるという回り逢わせには感慨深いものがある(ちなみに会場には谷が姿を見せ牧と並び観劇していた)。日本バレエの歴史は連綿と続き、現在も新たな一頁が記されていく。