「深川秀夫バレエの世界」

平成19年度名古屋市芸術特賞・第34回橘秋子賞特別賞受賞記念
「深川秀夫バレエの世界」
〜一夜かぎりの夢の競演、きらめくスターダンサーたち。

演出・振付:深川秀夫
バレエ・ミストレス:国枝真才恵
プロデューサー:小西敏正
●『Ne Me Quitte pas』
●『ダフニスとクロエ』
●『グラズノフ スウィート』
●『真夏の夜の夢

(2009年3月13日 中京大学文化市民会館オーロラホール)

日本バレエの海外進出の先駆者が深川秀夫である。ヴァルナ、モスクワの国際バレエコンクールにおいて上位入賞後、ジョン・クランコやジャン・クロード・ルイーズらに師事。12年の海外生活を経て帰国後は出身地名古屋を拠点にフリーの振付家として活動し多くの創作を発表している。平成19年度名古屋市芸術特賞、第24回橘秋子賞特別賞と立て続けに受賞を重ね、両賞受賞を記念してのリサイタルが行われた。名古屋を中心にバレエ団の枠を越えた精鋭ダンサーが集うという豪華な顔合せも話題だ。
幕開けの『Ne Me Quitte pas』(1990年)は、深川のソロ。ジャック・ブレルのシャンソンにのせ軽やかにして哀愁をこめたダンスを披露した。脚先が美しくピルエットも流麗だ。続く『ダフニスとクロエ』(2006年)はラヴェル曲を用いた深川近年の代表作。海賊に拉致され、傷を負い帰還したクロエを抱擁するダフニスのパ・ド・ドゥ部分を大寺資二と渡部美咲が踊った。リフトも多用の技巧的なものながらふたりの切なる感情の揺れをドラマティックに描き出す。3番目は深川の名刺代わりともいえる名作『グラズノフ スウィート』(1985年)。バレエ「ライモンダ」の曲を用い女性25人がディヴェルティスマンを展開していく。アントレにはじまり、ヴァリエーションやパ・ド・トロワ、ワルツを織り交ぜめくるめく叙情世界を立ち上げる。洒落っ気たっぷりの細かなステップとニュアンスに富んだ上半身の動きが振付の特徴。ネオ・ロマンチシズム風と評される深川美学の粋といえる。畑野ゆかり、植村麻衣子、車田千穂、安藤有紀、伊藤優花ら中部地区を代表する踊り手の競演は語り草になることだろう。最後は『真夏の夜の夢』(1993年)。シェイクスピア原作、メンデルスゾーン曲を用いたオーソドックスな構成ながら妖精たちの夢幻的なまでの軽やかさと恋人たちによる人間味あふれる恋の鞘当てを対照的に描き出す。ここでも大岩千恵子、原美香、大寺資二、高宮直秀、アンドレイ・クードリャら名古屋、関西で活躍するスターたちが勢ぞろい。なかでも妖精パックを踊った窪田弘樹が出色の出来。軽やかで高く着地音のほとんどしない跳躍は観るものを陶然とさせた。
いずれもロマンチシズム溢れ独自の輝きを放ちつつ誰もが愉しめる作品に仕上がっている。アルチザンにしてマエストロである深川の天才性を余すことなく示す一夕だった。