ミクニヤナイハラプロジェクトvol.4『五人姉妹』

ダンス・映像・音楽・衣装等のディレクターが集うニブロールを主宰する振付家/ダンサーの矢内原美邦。同時に彼女は、映像の高橋啓祐とのユニットoff nibrollミクニヤナイハラプロジェクトといったユニットを結成し個人での表現活動にも意欲的です。矢内原が同時代のアーティストのなかで抜きん出ているのは、飽くなき表現への欲求、表現せずにはいられない語るべき何かを持ってひた走っている点ではないでしょうか。
個人プロジェクトであるミクニヤナイハラプロジェクトでは、おもに演劇作品を上演してきました(『3年2組』と『青ノ鳥』、後者の上演台本にて岸田國士戯曲賞最終選考にノミネート)。でも、それらは常識的な意味での演劇とは趣を異にします。演者が何を喋っているのかわからぬ位に早口で台詞をまくし立てる。台詞を話す際ダンスのような動きがあってハイテンションに動く。展開に脈絡なく、物語を追おうとすれば、混乱してしまう。言葉と身体がぶつかり転がっていく、めくるめくスピード感が特徴です。そこに映像や音楽も絡み情報量は膨大なものに。矢内原の“演劇”作品を観るに際し、意味や物語に足を引っ張られると、置いてけぼりをくらい、混沌の海を漂流することになります。
プロジェクトの新作『五人姉妹』も演劇作品。矢内原はニューヨークでチェーホフの『三人姉妹』を観劇、感銘を受けたことから戯曲執筆を思い立ったとか(結果的にチェーホフの影響はほとんどみられませんが…)。“五人姉妹の持つ習慣性”が主題らしく、母を亡くし執事ひとりを雇って暮らす姉妹たちが描かれます。登場人物は、過眠症や引きこもりといった何かしらの障がいや欠落を持っている。彼らはほとんど間断なく話し、動き回ります。早口で滑舌いいとはいえません。しかし、言葉に思いをこめて話し動くことによって感情の振幅が痛いほどに伝わってきます。なるほどやや過剰な芝居かもしれません。でも、観終わったあと、逆にこう思います。「ナチュラルな演技って何?」と。
ダンス畑の矢内原の創った“演劇”のため、戯曲や役者の発声といった面に関して色眼鏡でみる向きもあるかもしれませんが他の要素も見てみましょう。まずは振付。役者が言葉を発する際に生まれる感情の揺らぎを自在に動きとして定着させます。日常的な動きも取り入れつつテンション高く激しいという、矢内原一流のもの。役者の素の身体、上手く踊ろうとする嘘のある身体ではないからこそ可能なのでしょう。スタッフも今回、映像の高橋は別にして、音楽は中原昌也、衣装はスズキタカユキという、普段のニブロールとは違う新たなスタッフを起用しました。中原は1曲だけの提供でしたが、印象に残る使われ方。スズキの衣装は、白黒基調にじょじょに変化をつけるもので、演出と密接に関わっていました。「ニブロールから離れ、矢内原のやりたいようにやる」というプロジェクトの主旨が活かされ、実際に効果を生んでいたように思います。
矢内原の“演劇”作品は、通常の意味での物語性やドラマツルギーからすれば破綻はあるかもしれません。でも、それを補って余りある魅力もある。ただ、アフタートークの際、劇作家の宮沢章夫も指摘したように、矢内原のプランを舞台に余すことなく定着させるには、身体訓練や発声法等のメソッドを確立していく必要があるかもしれません。そうすれば、伝えたいことと、観るものの想像力に働きかけたいことが明瞭になり、より奥行きと訴求力ある矢内原ワールドがみられるのでは。新展開が楽しみです。

ミクニヤナイハラプロジェクト vol.4
『五人姉妹』本公演

作・演出・振付:矢内原美邦
音楽:中原昌也
衣装:スズキタカユキ
出演:稲毛礼子/笠木 泉/高山玲子/三坂知絵子/光瀬指絵/山本圭
(6月25日〜28日 吉祥寺シアター 25日所見)