高襟(ハイカラ)『高襟狂騒曲〜ハイカラプソディ〜』

幼少から藤井公・利子・高野尚美に師事した深見章代。モダンのコンクールにおいて数々の入賞歴を誇っています。ジャン=クロード・ガロッタから海外活動への勧誘を受けたそうですが、国内での活動を続けることを選び、伊藤キム+輝く未来のメンバーとして『激しい庭』(2001年)、『壁の花、旅に出る』(2005年)などに出演。踊り手としてキャリアを積んできました。2001年にはダンスカンパニー高襟(ハイカラ)を結成し作品発表するかたわらカワムラアツノリ主宰の初期型のメンバーとしても活動しています。
高襟が広く注目されたのは2006年「横浜ダンスコレクションR」のコンペティションに『Яoom』を出品した時でしょう。以後も“女であることを武器に”“日常の一部をシュールに切り刻み、ランダムに貼り付けながら作品を創り続ける”ことを身上に創作を続けてきました。2008年8月には、初の単独公演『ふぞろいな果実』を開催。ただ、それらの作品では、女性であることを強調するがあまりの生々しいシーンが雑然と連ねられている印象も拭えませんでした。が、2008年12月に行われた第2回公演『罪と果実』では、変化の兆しもみえてきます。新メンバーで、ロリータっぽい魅力と磁力あるオーラを放つ深谷莉沙の少女性を核に据え、色白で大人しそうにみえて一旦エンジンがかかると狂ったように針の振り切れたパフォーマンスを行う吉川絵里、そして濃いボスキャラの深見が絡む展開。女たちの罪の懺悔をしつこくしつこく濃密に表出していました。
それから半年経ての第3回公演が『高襟狂騒曲〜ハイカラプソディ〜』です。深見、吉川、深谷に加え、清楚な美人顔にほのみえる大人びた情感が魅力の津田由紀子、ずしりとした量感があり不敵な存在感漂う青山るり子という現在の高襟メンバー総出演。ビゼーカルメン」やドヴォルザーク「新世界」といったクラシック曲を用いて女たちの狂態奇態が描かれます。互いに絡み合ったり叫びあったりして散らすエロスの火花。セックスアピール十分なスリット入りの衣装、血や肉欲を想起させる赤いヒール靴など小道具も効果的です。終盤、ダンサーたちと客席の間に垂らされる黒のテープ。観るものは檻のなかの女たちをみているようにみえて、向うからも見られている、いや観ている方こそエロスの奴隷なのかもしれない、という不思議な感覚に陥ることになります。
深見はジェンダーを意識して創作、ユーモアある作品を目指したとか。狙っている線はマリー・シュイナールやヤン・ファーブルなのかな、と。女たちの狂態を描きシュールな笑いやシニカルな笑いを生むには、骨太の批評性が一貫していないと思いつきに終わります。各シーンのつながりにやや脈絡無く、イメージの並列といった印象が残るのは否めません。とはいえ、70分間を少しもテンションを落とすことなく踊り暴れ、あの手この手で飽きさせないようにするサービス精神と熱意は買えるのではないでしょうか。
最後にひとつ触れておきたいことがあります。それは本公演のチラシに関して。表は顔を大きな薔薇の花で覆われた女が股から下が露な脚を上げポーズをとっています。裏には“毒を含んだシュール・エンターテイメント! 薔薇色にエロスを染め上げ、いま、高襟が動き出す― ”というコピー。絵もコピーもエロス一色に染め上げています。何をみせたいのかが明快です。昨今のダンスや演劇公演のチラシをみると、センスよさげなデザインであっても、観客にとって公演やカンパニーのイメージを掴むことの難しいものも少なくない。一応客商売なのだから、その点は留意すべきに思うのですが・・・。

高襟 第3回公演『高襟狂想曲〜ハイカラプソディ〜』
構成・演出:深見章代
出演:吉川英里、津田由紀子、青山るり子、深谷莉沙、深見章代
(2009年6月22日〜28日 Dance Studio UNO)