コチェトコワ&シムキン主演『ドン・キホーテ』全幕

世界バレエフェスティバルが全幕特別プロ『ドン・キホーテ』によって開幕!ワシーリエフ版『ドン・キホーテ』はバレエフェス全幕の定番、前回はタマラ・ロホ&ホセ・カレーニョ、前々回はガリーナ・ステパネンコ&アンドレイ・ウヴァーロフというベテラン組が主演していますが、今回は若手のマリア・コチェトコワ&ダニール・シムキン主演です。
ジュニア時代から国際バレエコンクールで賞を総なめにしたシムキンは、小柄ながらまれに見るテクニシャン。愛嬌もあって過去2回の来日では『レ・ブルジョワ』等ソロ中心に踊って沸かせました。アメリカン・バレエ・シアターに入団後まだ日が浅いものの一流カンパニーできっちり古典を学ぶことによって、よりスケールの大きな踊り手になりつつあるのが感じられます。跳躍の軽やかさ、ピルエットの滑らかさは見事。そして、音を外すことなく優美に踊るのがすばらしい。本格的なパ・ド・ドゥに初めて挑んだのは、4年前のNBAバレエ団「ゴールデン・バレエ・コー・スター」においてだったようですが、今回、サポートも丁寧で片手リフトも様になっていました。コチェトコワも小柄ながら小気味よいテクニシャン。グランフェッテは余裕でダブル入り。ピケターンも強く精確です。とはいえ、こちらも技に溺れず、余裕を持ってキトリ役をはつらつと演じ好感を持ちました。
東京バレエ団は近年中堅層が抜けてしまいましたが、やはり人材豊富で層が厚い。この日の白眉は、ガマーシュの平野玲とキトリの友人の佐伯知香。平野は王子役も踊れる資質を持っているので平野ファン的にはキャラクテールでの起用に不満もあるようですが、演技派であり、ガマーシュをやらせると天下一品。気障で鼻持ちならない、芝居臭さが鼻につくくらいの演技があって面白くなる役どころを、さらりとやってのけるのが痛快でした。佐伯は軸が安定していてラインも美しい逸材。先日『ジゼル』(学校公演のため一般非公開)にて主演デビューを飾っており、上野水香、小出領子に続く東京バレエ団のプリマとして期待されます。この日もリズミカルな踊りが際立っていました。
夢の場も美しく、闘牛士たちの踊りも盛り上がり、総体的に水準の高いステージ。ワシーリエフ版上演を振り返ると、2001年初演での熱気と興奮、ステパネンコ&ウヴァーロフを招いた際の比類ない完成度、上野水香の入団後初の国内全幕主演の際の高揚感も忘れ難いですが、今回は群舞の端々までよくこなれて演者が楽しんで踊っているのが感じられました。ゲストと団員のプロポーションの釣り合いもとれ一体感もある。明るく楽しくハッピーな『ドン・キホーテ』。納涼バレエとして最高でした。
(2009年7月29日 東京文化会館)
参考映像:Daniil Simkin - Ballet Don Quixote - Basil