今年は『眠りの森の美女』の当たり年、でもある

今年は国内の多くのバレエ団が『ジゼル』を上演することが話題でした。後半戦に入り、谷桃子バレエ団を残すのみ。それに加え本年は『眠れる森の美女』上演も少なくない1年となります。以下、私が今年現時点で観た『眠り』全幕を挙げておきます。

東京バレエ団(主演:ヴィシニョーワ&マラーホフ)
1月8日 東京文化会館
東京バレエ団(主演:吉岡美佳&後藤晴雄)
1月9日 東京文化会館
貞松・浜田バレエ団(竹中優花&武藤天華)
2月8日 明石市民会館アワーズホール
日本バレエ協会(主演:下村由理恵&佐々木大)
3月25日 ゆうぽうとホール
日本バレエ協会(主演:島添亮子&法村圭緒)
3月26日 ゆうぽうとホール
日本バレエ協会(主演:酒井はな&李波)
3月27日 ゆうぽうとホール
小林紀子バレエ・シアター(主演:島添亮子&テューズリー)
4月24日 新国立劇場中劇場
さがみ湖野外バレエフェスティバル(主演:酒井はな&李波)
8月9日 さがみ湖野外特設劇場
世界バレエフェスティバル全幕特別プロ(主演:コジョカル&コボー)
8月15日 東京文化会館
日本バレエ協会関東支部埼玉ブロック(主演:酒井はな&齊藤拓)
9月13日 川口リリアホール

ほかにはレニングラードク国立バレエが1月に上演し、秋以降、マリインスキー・バレエキエフ・バレエが上演しますね。それでも上演団体数でいえば、『ジゼル』には及びませんね。複数キャストをチェックしたため例年になく多く観ることになったのでしょう。
『眠り』は、いわゆるチャイコフスキー三大バレエのひとつですが、かのディアギレフが全幕をロンドンにて上演した際、莫大な負債を抱えてしまった、というエピソードからもわかるように、上演しようとすれば経費が半端なくかかります。本格的な上演はそう多くはありません。ソリスト、コール・ド・バレエの人数・水準とも充実していなければ目も当てられない上演になり、上演団体の体力を計ることのできる作品ともいわれます。とはいえ、観客の興味は主役ペア、とくにオーロラ姫に尽きるでしょう。オーロラ役は、第一幕のローズ・アダージョや第三幕のグラン・パ・ド・ドゥまで踊りが豊富、技術的にも簡単ではないはず。でも、それ以上に、踊り手の個性・オーラの有無が如実に現れる役柄ではないでしょうか。まさにスターの試金石といえるでしょう。
今年観たオーロラのなかでは、アリーナ・コジョカルの演技が群を抜いてすばらしかった。怪我からの復帰間もなく本調子でないでしょうが、それでも各幕を多彩に演じ分け圧巻。エレガンスと音楽性に富んだ踊りは当代随一でしょう。ロシア・メソッドによる柔軟なラインと、英国スタイルの典雅さを兼ね備えた、現在世界最高峰のプリマだと証明するに充分な出来ばえ。「スーパーバレエレッスン」放映中の吉田都さんも「ダンスマガジン」の連載のなかで、その意志のある見事なパフォーマンスを絶賛していました。
日本を代表するプリマ、下村由理恵、酒井はなの演技も充実。それぞれ佐々木大、李波とのパートナーシップの妙でも魅せました。酒井は、齊藤拓とのコンビでも充実。私生活での結婚(フォーサイス・カンパニーの島地保武)後、はじめての全幕主演に相応しい演目であり、幸福なオーラが漂ってきました。吉岡美佳は当初予定されていた小出領子に代わっての登板。その類まれな“お姫様オーラ”を最大限発揮できるのは、やはりオーロラ役であると再認識させられました。竹中優花&武藤天華組は公私にわたるパートナーであるだけに両者の醸す雰囲気の好さも忘れ難い。島添亮子&法村圭緒ペアをみると、それぞれの師である小林紀子、法村牧緒が、かつてバレエ協会公演の華であったことを想起させられ、時代の移り変りを感じずにはいられません。
わが国には、多くのカンパニーがあり、同じ作品でもそれぞれ異なったプロダクションを上演しています。それが必ずしも全ていいことばかりではないかもしれませんが、多くの多彩な上演に接し、見比べる楽しみは、捨てがたいものがあります。