大阪市主催・平成21年度 青少年に贈る舞台鑑賞会「バレエ」『ドン・キホーテ』&MRB・バレエ小発表会

大阪市が主催し青少年のために良質の舞台芸術を廉価で提供する「青少年に贈る舞台鑑賞会」。バレエ部門は今年で4回目を迎えました。毎回早々に入場券が完売する人気公演です。初回から芸術監督・企画プロデュースを担当するのがMRB松田敏子リラクゼーションバレエを主宰する松田敏子。MRBは毎夏、京阪神を中心とした一流ダンサーの集う「バレエスーパーガラ」を開催し、今夏ですでに11回を数えています。大小さまざまの団体が林立する関西のバレエ界において松田はオープンスタジオという利点を活かしてコーディネーター、プロデューサー的立場で存在感を示してきました。関西バレエの魅力を発信する旗手といえるでしょう。大阪市から企画制作を委託された「青少年に贈る舞台鑑賞会」で発揮する手腕にも端倪すべからざるものがあります。

入場時の模様。大入り満員の盛況で何より。
今回の『ドン・キホーテ』は朝昼2回上演。振付は松田と小嶋直也。町の広場から夢の場、居酒屋を経て大団円へと向かう構成です。風車小屋やジプシーたちの人形劇等の場をカットして約90分にまとめていました。この公演は大阪市民ことに青少年に向けたものですが、バレエ通であれば豪華なキャスティングに目を奪われるでしょう。プログラムに評論家の桜井多佳子さんが“個性的なダンサーが多い関西だからこそ実現するこの公演は、東京はじめ全国に、回を重ねるごとに知られていっています。全国のバレエファンがうらやましがる公演といえるでしょう”と書かれていますが、まさにそのとおり。主役のキトリとバジルを柳原麻子&法村圭緒(朝の部)、吉田千智&福田圭吾(昼の部)が務め、エスパーダ&メスセデスには小嶋直也&田中ルリ(朝の部)、竹中優花&武藤天華(昼の部)。居酒屋の女を振付家として知られる矢上恵子、ロレンッオを芸達者の梶原将仁、ドン・キホーテを法村友井バレエ団のベテラン井口雅之が務めるという豪華さ。男性のアンサンブルには牧阿佐美バレヱ団および貞松・浜田バレエ団の生きのいい若手男性陣が揃うなど隅々まで厳選された配役。面白くない筈がありません。
朝の部では、ベテランの域に入りつつも若々しさを失わない法村とキトリ役を得意とする柳原のコンビ、そして小嶋&田中というスター中心に大人びた雰囲気を醸して見ごたえのあるドラマを生み出しました。昼の部では、華奢な身体と美しいラインをみせる吉田とクールに超絶技巧を決めていく福田、公私のパートナーらしく息のあった演技の光る竹中&武藤らがエネルギッシュに踊って爽やかな舞台に仕上がっていました。矢上や梶原、井口はもちろんのこと若手の踊り手も役を楽しむ余裕が感じられ、それが舞台に活気をもたらしています。人材豊富な関西バレエ界のエッセンスを凝縮したかのよう。楽しさ溢れつつコアなバレエファンにも満足できる見所豊富な公演でした。
ドン・キホーテ』終了後は、同会場にてMRBプロデュース小発表会が行われました。第一部、第二部のヴァリエーション&パ・ド・ドゥ集を経ての第三部が眼目の『ロミオとジュリエット』です。総監督・振付・演出は小嶋直也。小嶋は、牧阿佐美バレヱ団やAMスチューデンツ、新国立劇場バレエ研修所等で後進の指導にあたりつつ昨年秋の法村友井バレエ団『白鳥の湖』以後、踊り手として鮮やかな復活と躍進を遂げファンを喜ばせています。そして今回、発表会とはいえ全幕バレエを初めて振付けました。
新旧さまざまの版があり、バレエファンにも人気の演目『ロミオとジュリエット』。小嶋版は、そんななかにあって奇を衒わない直球ストレート勝負の演出ながらもロミオとジュリエットの出会いから別れまでをテンション高くスピーディーに展開します。特筆すべきは、主役から脇役、アンサンブルにいたるまでの演技・表情がナチュラルに演出されていた点。ロミオとジュリエット、それにティボルトやパリスらが絡む場では、それぞれの視線や表情が人物間の微細な関係性を何よりも雄弁に語ります。決闘の助けに入ろうとするも仇になり親友のマキューオを殺された際のロミオの嘆きと悲しみが憤怒へと変わるプロセスも説得力十分。終幕、仮死状態のジュリエットをみて毒を飲み息絶えていくロミオと、眠りから覚めて起き上がっていくジュリエットが同時に描かれる場では、生と死の交差のなかに無常、不条理を描きつくして感銘深いものがありました。
ロミオは牧阿佐美バレヱ団の藤井学。ジュリエットはMRBの大人の生徒の方ですがしっかりした演技力の持ち主。瞠目すべきはなんといっても脇を固めるキャストたちでしょう。ティボルトを小嶋が踊ったほか、マキューシオに法村圭緒、ベンヴォーリオに恵谷彰、キャピュレット卿夫妻に梶原将仁&田中ルリら。ことに小嶋の粗暴で剛毅溢れるなかにそこはかとなく気品も感じさせるティボルトは絶品。法村や恵谷もいい意味で肩の力が抜け、役を楽しみながらも真摯に演じる実力派らしい余裕をみせて舞台を大いに盛り上げていました。装置や予算面の都合上という側面が強いとはいえ場によっては暗転が長くなってしまったりと気になる点も。主役のパートの振付により多彩さがあればと感じもしました。とはいえ、これも発表会という性質上に拠るものが大。さらに練り上げれば、一層魅力あるレパートリーとして定着するのではないかと思います。いずれにせよ、発表会の枠を超えた、豪華で見ごたえのあるステージでした。
(2009年11月3日 新大阪・メルパルクホール)