東京バレエ団の2010年のラインアップについて

東京バレエ団の2010年度ラインアップが11月20日付で発表されました。
http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/2010.html

1月
ラ・シルフィード」全幕
2月
<マニュエル・ルグリの新しき世界>Aプロ
2月
「シルヴィア」全幕東京バレエ団初演】
4月
「ザ・カブキ」全幕
5月
「オネーギン」全幕東京バレエ団初演】
6〜7月
第24次海外ツアー
8月
海外公演帰朝報告公演(仮称)
9〜10月
「ジゼル」全幕
12月
「M」全幕

一番の話題はクランコ『オネーギン』のバレエ団初演でしょう。世界のあらゆる著名ダンサーたちが踊りたがるドラマティック・バレエ不朽の名作ですがなかなか上演許可が下りないことで知られています。以前、韓国のユニバーサル・バレエが『オネーギン』を上演するという報は入っていて、同じアジアの国のバレエ愛好者として忸怩たるものがありました。今回東京バレエ団に許可が下りたのは何より。東京バレエ団総監督の佐々木忠次はその著書「闘うバレエ」において齋藤友佳理と高岸直樹、首藤康之(特別団員)がいるうちに『オネーギン』を上演したいと書いていましたが、なんとか間に合ってよかったというのが佐々木氏だけでなく多くのファンにとっても偽らざる想いでしょう。
ここ数年、私は『オネーギン』とノイマイヤーの『椿姫』をレパートリーに入れたカンパニーが「勝ち組」になると考えており、このblogでも書きました。実際、版権さえ維持していければ折々世界のスターたちを招いて永続的な集客が可能になります。『オネーギン』に限らず東京バレエ団がレパートリー化するマカロワ版『ラ・バヤデール』やアシュトン『シルヴィア』は繰り返しの再演に耐える傑作。演者ごとに演技を深められ多様な光彩を放つ物語バレエの傑作の需要は一層拡大していくはずであり、国際的視野に立つ大バレエ団であれば喉から手が出るほどほしいでしょう。いっぽうで気鋭の振付家/ダンサーのパトリック・ド・バナの作品を初演するなどコンテンポラリーへの取り組みにも意欲的です。海外ツアーも予定されており、6月のハンブルク公演では前後してハンブルク・バレエがノイマイヤーが東京バレエ団のために振付けた『月に寄せる七つの俳句』『時節の色』を初演。国際的にも東京バレエ団の存在感が大きくなるでしょう。
いい作品が揃い、踊る機会も多ければ若い優れたダンサーもどんどん東京バレエ団に入りたくなるのでは。実際、東京バレエ団では若手の抜擢が目立ちます。4月に上演の『ザ・カブキ』では、柄本弾を由良之助に二階堂由依を顔世御前に抜擢。
http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/20104.html
これは『くるみ割り人形』から来年の『ラ・シルフィード』『シルヴィア』に至る公演で行う「マイ・キャスト シリーズ」に続く試みでしょう。ちなみに明日(11月21日)に行われる『くるみ割り人形』公演に主演する佐伯知香&松下裕次の魅力と個性について公演プログラムに寄稿させていただきましたが、新世代の踊り手をその資質を見極めながらじっくり育てつつ(←重要)ここぞというタイミングで抜擢を行う東京バレエ団の攻めの姿勢には目を瞠らされるものがあります。「マイ・キャスト シリーズ」はオーケストラ付でS席7,000円、『ザ・カブキ』もテープ演奏とはいえBunkamuraオーチャードホール上演でS券9,000円。廉価席も用意されています。観客が気軽に暖かく若手の成長・躍進を見守ることのできる体制・雰囲気作りを意識しているのが見て取れる。観客重視。メディアを使って押し出しても観客の支持がなければスターが生まれないことは明々白々です。
他にも『M』の再演や海外帰朝公演等楽しみなところ。事業仕分け問題で揺れる舞台芸術界。そんななか、これだけの豪華なラインアップを予定しているのには驚かされます。文化庁助成のほかファンドレイジングやポワント基金といった民間からの援助もあり、そしてなによりしっかりと集客を見込めるラインナップと体制作りができていることが大きいでしょう。自助努力も必要。いずれにせよ楽しみな一年となりそうですね。