古典を受け継ぐこと

来日中のマリインスキー・バレエが上演した『眠れる森の美女』を観ました。先日同カンパニーが上演した『白鳥の湖』同様セルゲーエフ版。善と悪というテーマ基調にクラシカルなダンスとキャラクターダンスが多彩に織り込まれ、全体を通して堅牢な建築物のように間然とするところなく組み立てられています。古式ゆかしいものでオーソドックスなよさがある。意地悪にいえば古色蒼然としているともいえるかもしれません。しかし、本家本元の上演するヴァージョンをみるとホッとするものがあるのも事実。オールドファンであればあるほどその思いの強い人が多いのではないでしょうか。
今回のマリインスキー・バレエによるセルゲーエフ版『眠れる森の美女』の上演時間は、プロローグ付3幕で休憩3回入れて3時間半強。少々長く感じられ、観劇には少なからぬ体力を要求されますが、終演後は心地よい疲労のようなものを覚えます。休憩ごとに知人や友人と会話をたっぷり楽しんだりするのも劇場文化の魅力のひとつ。とはいえ、現在、セルゲーエフ版を基にしたもの含めさまざまの改変を加え、また休憩を1、2回に減らすなどして上演時間の短縮を狙ったものも少なくありません。
その場合問題になる点も。私は原曲至上主義者ではありませんが、チャイコフスキー3大バレエやプロコフィエフものであれば音楽を尊重してほしい。首を傾げたくなるような編曲も無くはありません。また、ドラマ性を高めるため設定変更や読み替えを行う試みもあって、それは歓迎すべきですが、必然性薄い「改定のための改定」のようなもの、奇を衒ったものになれば元も子もない。グランド・バレエというものには形式があって劇場芸術として受け継がれてきた伝統があるということは忘れてはならないでしょう。
上演時間の短縮に関しては時代の要請といわれます。果たしてそうでしょうか。忙しない世の中だからこそ、豪華な夢のひと時に身をゆだねたい気も。それに長年受け継がれる古典をカビの生えない程度に修正等加えながらも守って維持していくことはことはバレエ人の使命のひとつ。その点、日本のカンパニーや団体では、古典をしっかり受け継ごうという姿勢が顕著なところも少なくなく頼もしい限り。現代作品、創作作品の普及に関して遅れている感は否めませんし、古典の新解釈等ももっと出てきてもいい。しかし、古典の良さをしっかり受け継いでいくことは大切であり、それだけの価値・魅力がある。マリインスキー・バレエの上演に接して改めてそう思わせられました。
マリインスキー・バレエ公式HP
http://www.japanarts.co.jp/html/2009/ballet/mariinsky/index.htm