今夏以後のブルノンヴィル関連のセミナー・公演
オーギュスト・ブルノンヴィル(August Bournonville 1805〜1879)は、19世紀前半のロマンティック・バレエ最盛期に活躍したデンマークのバレエマスター・振付家。その作品に特徴的な技術体系や思想をブルノンヴィル・スタイルとよぶのはよく知られよう。ブルノンヴィル振付といえば、ダイナミックな跳躍や軽やかな足さばきがちりばめられ、美技をスパスパ決めるのを見ていると実に爽快だが、踊り手泣かせといえる。バレエ=舞踊劇として捉えたロマンティック・バレエならではの演劇性の高い作風のなかに独自の美学を織り込んだ『ナポリ』『ラ・シルフィード』等は不朽の名作として知られよう。
夏以降ブルノンヴィル絡みのセミナー・公演が続くのでピックアップしておく。
まずは、8月に井上バレエ団が日本バレエ協会との共催により「第1回 ブルノンヴィル・サマー・セミナー in 東京 」を開催する。
http://www.inoueballet.net/information/index.html#info_2
これは、本場デンマークからフランク・アンダーソン、エヴァ・クロボーグらブルノンヴィル・スタイルに習熟した指導者を招いてスタイルの基本を身につけて踊れるようにするための講座。クラス、レパートリー、マイムクラス、ブルノンヴィル・バー、講義を受けることができるようだ。『ラ・シルフィード』全幕のほか『ゼンツァーノの花祭り』『ナポリ』の抜粋や『コンセルヴァトワール』といったブルノンヴィル作品を上演し、ブルノンヴィル・バレエの総本山であるデンマーク・ロイヤル・バレエと長年にわたって交流を深めてきたバレエ団ならではの企画といえる。2年前には大阪芸術大学でもブルノンヴィル・スタイル普及セミナーが行われ、井上バレエ団が協力しているが、所属を問わず広く門戸を開いてブルノンヴィル・スタイルを普及させて行こうとする姿勢は高く評価されていい。
秋には牧阿佐美バレヱ団が『ラ・シルフィード』を11年ぶりに再演する。
http://www.ambt.jp/schedule.html
若手プリマの競演も楽しみだが、同時にジョージ・バランシンの『セレナーデ』を上演するというのがなんとも心憎い趣向だ。デンマーク・ロイヤル・バレエでも特別なときにのみ上演されるプログラムである。20世紀バレエの巨匠と称されるバランシンも、もとはといえばクラシック・バレエ様式を極めたマリウス・プティパの系譜を受け継ぐロシア・マリインスキー劇場出身。ロシア・バレエはフランスとともにデンマークからの影響も多々受けて発展してきた。バランシン作品にみられる繊細なポアントさばきはブルノンヴィル作品とも相通じる。しかし、ドラマ性を非常に重視するブルノンヴィル作品と物語性を極力排除したアブストラクト・バレエで知られるバランシン作品の作品様式は大きく異なる。具象と抽象というものは、あらゆる芸術表現にみられる両極であるが、バレエ芸術においてそれを見事に体現するのがブルノンヴィルとバランシンといえる。牧バレエの今秋の公演は、両者のバレエの精髄、バレエの多様性を知るにはうってつけといえよう。
なお、ブルノンヴィルとバランシンのバレエに関しては、バレエ史研究の第一人者・鈴木晶氏の「ブルノンヴィルとバランシン」(新国立劇場「ラ・シルフィード」プログラム 2000年6月)が詳しくて有益、大変参考になる。ネット上でも閲覧できる。
http://www.shosbar.com/works/dance-articles/bournonville.html
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