バランシン・バレエ
このところ牧阿佐美バレヱ団『セレナーデ』、新国立劇場バレエ団『シンフォニー・イン・C』を立て続けにみて「バランシンっていいな」と今更ながらに思った。
バランシンのアブストラクト・バレエが「音楽の視覚化」と呼ばれることは周知のとおりだが、舞踊ことにバレエにとって音楽との関係は切り離せない。バレエ系の振付家の才能を判断する場合、私は第一に音楽センスを見る。それがない人はいくら頑張っても上限は知れていると断言したい。現在のバレエ界を担う振付家、たとえば『マダム・バタフライ』全幕で知られるスタントン・ウェルチや『明るい小川』全幕で話題を振りまいたアレクセイ・ラトマンスキーにしてもオーソドックスなアブストラクト・バレエで見事な音楽性を発揮している。それらはバランシンの血が確実に受け継がれ脈打っている。わが国でもバランシン『シンフォニー・イン・C』と同曲使用の下村由理恵『BIZET SYMPHONY』などバランシンを射程に入れつつむしろバランシン以後で語れる秀逸なものと思う。
日本の舞踊評論家のお歴々のなかには「バランシン命!」を公言して憚らない方もいるし、逆に古典にしろ創作にしろドラマ性のあるものが好きなのであまりバランシンは好きではないという人もいる。好みは色々あろう。ただ、バランシン作品にドラマ性がないというのは一概にそうはいえない。たとえば、バレエ・リュス最後期に振付けた『放蕩息子』のような滋味豊かな舞踊劇もあるし、渡米第一作『セレナーデ』にしても抽象美のなかにそこはかとないドラマが感じられる。とはいえ、バランシンはアメリカに渡らず欧州で活動していたならばあれほどまでにアブストラクト・バレエを量産したであろうか。『放蕩息子』のようなドラマ性のあるものをさらに膨らませていったかもしれない。
個人的にはバランシン作品では『放蕩息子』それにやっぱり『セレナーデ』あたりが好き。『セレナーデ』はわが国のバレエ団が競うようにレパートリー化していて上演を見比べられる楽しみがある。あと東京バレエ団が上演している『バレエ・インペリアル』も嫌いではない。これはバランシンが帝都サンクトペテルブルクへのオマージュを込めた詩情豊かなもの。また、東バのバランシン作品というと長い間上演していないが『水晶宮』がある。これは『シンフォニー・イン・C』と同曲を使ったものだが衣装がより華やかで振付等も異なる。元々はパリ・オペラ座バレエに振付けられたもので後年、バランシンのお膝元・ニューヨーク・シティ・バレエにて上演される際に『シンフォニー・イン・C』として改題・改編されたものなのはよく知られよう。今回の新国立劇場バレエ公演プログラムにおいて長野由紀さんが『シンフォニー・イン・C』と『水晶宮』の違いを分かりやすく解説している。『シンフォニー・イン・C』は昨年、熊川哲也Kバレエカンパニーもレパートリー化したが、日本では久々となる『水晶宮』上演も望みたいところだ。
- 作者: バーナード・テイパー,Bernard Taper,長野由紀
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Bringing Balanchine Back - New York City Ballet