ベジャール没後3年
20世紀バレエ革新を大胆に押進めた巨匠モーリス・ベジャールの死からはや3年。
現在、ベジャール・バレエが来日中。ベジャールの衣鉢を継いだジル・ロマンに率いられ、ベジャール死後の同カンパニーの真価が問われるツアーといえる。先日はスービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団&東京バレエ団との共演「奇跡の響宴」を行って大成功をおさめたが、今後ベジャールの遺作『80分世界一周』やロマン振付作品『アリア』を含むミックス・プロが予定されている。そちらも楽しみだ。
さて、ベジャールの死に際して、新書館「ダンスマガジン」から増刊特別号が発刊された。題して「総特集 モーリス・ベジャール 1927 〜 2007」。ベジャールと縁の深かった関係者や斯界有数の識者による追悼のコメントや評論がたっぷり掲載されている。
ダンスマガジン緊急臨時増刊 総特集 モーリス・ベジャール 1927~2007 [雑誌]
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ということで、私の好きな、とういうか心に残るベジャール作品を5つほどあげてみた。
通・識者ぶったりしなかったわけではないが比較的オーソドックスな選択になったかと思う。他に『バレエ・フォー・ライフ』『ザ・カブキ』『ニーベルングの指輪』『ギリシャの踊り』『ブレルとバルバラ』等も挙げたいが、今現在の気分で5本に絞るとこうなる。
『ボレロ』『春の祭典』はベジャールの出世作だが古びない名作。『ボレロ』に文句をつける人はいないのでは。シンプルに見えて奥の深い振付で、踊り手によって大きく味わいが変わってくるのも魅力だ。メロディー役に関してジョルジュ・ドンやパトリック・デュポン、シルヴィ・ギエム、首藤康之らの演技は伝説的。現在もニコラ・ル・リッシュやエリザベット・ロス、上野水香らの好演が記憶に新しい。『春の祭典』はストラヴィンスキーの名曲を用いたもののなかでもニジンスキー版、ピナ・バウシュ版と並ぶ名作中の名作なのは疑いない。時代が経っても古びない。今後も確実に受け継がれるだろう。
『アダージェット』はドンからロマンへ受け継がれた珠玉の名編。現在、ロマンは踊る機会は滅多にないようだが日本では世界バレエフェスティバルのガラや2年前のベジャール・バレエ来日公演東京公演初日に踊ってくれた。日本のファンがベジャールとそのバレエ団を深く愛していることを知ったうえで特別に踊ってくれたものなのではないか。
『M』は東京バレエ団に書き下ろされた大作であるが、作家の三島由紀夫の生と死をモチーフにベジャールの奔放な想像力と天才的な演出手腕がいかんなく発揮された作品だと思う。万物の始原の海にはじまって海に終わる鮮やかな展開はじつに見事。べジャールの魔術ここに極まれりの感あって筆舌に尽くしがたい感動がある。
『東京ジェスチャー』は、ベジャールお気に入りだった小林十市のために創作された作品。故・6代目中村歌右衛門へのオマージュであるが、クールで涼しげな魅力ある小林の、ジェンダーをも軽やかに超える変幻自在な表現力を活かした異色作だ。小林の特権的身体を得たことで(ドンやギエムとも違う意味での)、ベジャールの、日本の伝統芸能やそれを演ずる演者の身体への関心が極点を迎えた記念すべき一作。
皆さんの心に残るベジャール作品、後世に遺したいベジャール作品はなんだろうか?
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