週刊「オン★ステージ新聞」2011年新人ベスト1に米沢唯&鈴木ユキオ

音楽、舞踊、演劇、映像の情報、批評による総合専門紙「週刊 オン★ステージ新聞」新年特大号1月6日号/第1906号が発行された。
当方も2006年以降同紙に寄稿しているが、今回の新年号でも2011年度の「洋舞ベスト5」と「新人ベスト1」が発表されている。評論家/ジャーナリスト15名の選出。
作品単位では新国立劇場バレエ団『パゴダの王子』、中村恩恵×首藤康之Shakespeare THE SONNETS』、東京バレエ団『ラ・バヤデール』、小林紀子バレエ・シアター『マノン』、貞松・浜田バレエ団・創作リサイタル23『冬の旅』等が票を集めている。来日では、ベルリン国立バレエ『チャイコフスキー』、アメリカン・バレエ・シアターロミオとジュリエット』等が高評価を得た。団体・個人別で計上すると首藤康之の主催・出演公演とシルヴィ・ギエムの来日公演が抜きんでた評価を集めた。
細かな集計や各選者のコメント等詳しくは同紙を手に取ってご覧いただきたい。
「新人ベスト1」は以下の通り。

新人ベスト1舞踊家 米沢唯(新国立劇場バレエ団)
新人ベスト1振付家 鈴木ユキオ(金魚 主宰)

ダンサーに関しては昨年は上位が拮抗して該当者なしだったが、09年が福岡雄大、08年が小野絢子、07年が清水健太という風に大手バレエ団の若手が入っている。振付家に関しては昨年が伊藤郁女、09年が該当なし、08年が森優貴、07年がキミホ・ハルバート、06年が東野祥子。なかなか渋いラインナップではないだろうか。振付家に対する賞は少ない。大きな賞ではないけれども貴重なものがあるかと思う。
米沢は新国立劇場バレエ団『パゴダの王子』さくら姫役の踊りなどが評価された。愛知県出身で名古屋の塚本洋子に学ぶ。ヴァルナ国際バレエコンクールジュニアの部第1位をはじめ内外のコンクールにて上位入賞。2006年米のサンノゼ・バレエ団に入団し、さまざまな古典・現代作品に出演した。バランシンやサープ作品も踊っている。
2010年に新国立劇場ソリストとして契約・入団し『パゴダの王子』で抜擢される。堅実なテクニックと豊かな表現力を披露。文句ないキャリア・実績も備えているだけに小野絢子と並んで若手プリマのエース格となることが期待される。
父親は演出家の故・竹内敏晴。「からだとことばのレッスン」と呼ばれる独特の演劇トレーニングの仕方を開発したことで知られる(wikipediaより引用)。私も演劇評論家・西堂行人の論考を読んで竹内の仕事に興味を持っていたのだけれども、米沢が竹内の愛娘だったとは不覚にも最近まで知らなかった…。竹内の最後の本となった「レッスンする人—語り下ろし自伝」には米沢が「父と私」と題する一文を寄せている。
個人的には2005年に愛知芸術文化センターで行われたダンスオペラ「UZME」においてギンギラギンのメタルの衣装を着せられて踊っているのが忘れがたいというかツボった(笑)。その後に行われた塚本洋子バレエスタジオの創立25周年記念公演でも活躍していたのを覚えている。塚本は榊原弘子・有佳子姉妹や荒井祐子ら少なからぬ名プリマを輩出している。米沢も芸どころ・名古屋が生んだ注目の気鋭プリマである。


レッスンする人―語り下ろし自伝

レッスンする人―語り下ろし自伝


鈴木は2月、青山円形劇場他にて上演された『HEAR』、7月、こまばアゴラ劇場で上演された『密かな儀式の目撃者』、11月、愛知芸術文化センター主催のオンド・マルトノ・コンサートとコラボレーション・ダンス公演『プロメテウスの光』等が評価された。
鈴木は舞踏出身。土方巽の系譜を継ぐアスベスト館に学び、室伏鴻やSAL VANILA等の作品に出演するかたわらカンパニー金魚を立ち上げた。独自の方法論による強固な身体性が基盤にありながらその舞台ではつねにリアルで切実な身体とは何かが問われ、時代と共振するアクチュアリティに満ちている。2005年に「トヨタコレオグラフィーアワード」の「オーディエンス賞」、2008年には同アワードのグランプリ「次代を担う振付家賞」を獲得した。以後、毎年新作を発表するほか海外公演も数多く行っている。
個人的には2004年12月に行われたネクスネクスト・ファイナル『幸福の森の掟』(金魚×10)を観て以後は主な公演の大方を欠かさず追ってきた(無論、それ以前から鈴木の存在を知っていたが)。鈴木と安次嶺菜緒を中心としたカンパニーは年を追うごとに成長をみせ、2006年12月の『犬の静脈に嫉妬せず』、2007年の『沈黙とはかりあえるほどに』あたりからコンテンポラリー・ダンスシーンの一線に躍り出てきた。2008年のトヨタ受賞後は破竹の勢いで活躍し内外で公演・ワークショップに引っ張りだこである。
東京シティ・バレエ団に提供した『犬の静脈』や、この夏のDANCE COLLOQUIUM Xで発表した『密かな儀式の目撃者』のようにバレエやモダンダンスで鍛えられた踊り手の潜在能力を活かしつつ彼女たちの築き上げてきたメソッドやスキルをリセットし新たな動きや身体性を追求した作品群も大変刺激的だ。バレエ団やモダンの団体がもっと振付委嘱してほしい。おもしろい化学変化が起こりそう。年明け2月には、シアタートラムで「揮発性身体論」と題した公演を行う。鈴木のソロ『EVANESCERE』と安次嶺ら女性メンバーによる『密かな儀式の目撃者』を上演する。心待ちにしたい。