年末年始に際して

2011年も残すところあとわずかとなった。
年末回顧に関しては、このblogのカテゴリ[2011回顧]をご覧いただきたい。また、音楽、舞踊、演劇、映像の情報、批評による総合専門紙「オン・ステージ新聞」新年特大号の洋舞ベスト5に回答したほか、「ダンスマガジン」2月号の「バレエ年鑑2012」ベスト・ステージ&ピープル 2011のアンケートにも答えた。私がどの作品・誰の名を挙げたか/他の選者がどうか興味持たれる方は、お手に取って一読願えれば幸いである。



観劇納めは29日、神奈川県民ホールで行われたファンタスティック・ガラコンサート2011「カンターレ、イタリア! 永遠のオペラ&バレエ」だった。今年で6回目となる催しである。指揮:松尾葉子、司会:宮本益光、出演:岡本知高ソプラニスタ)、山口道子(ソプラノ)、大澤一彰(テノール)、宮本益光(バリトン)、管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団といった面々がヴェルディアイーダ」「運命の力」、プッチーニ「トスカ」「トゥーランドット」やジョルダーノ「アンドレア シェニエ」、ディ・カプア「オー・ソレ・ミオ」(イタリア民謡)といった珠玉の名曲を唄い奏でた。加えて、東京バレエ団プリンシパル上野水香と高岸直樹が参加(今年で4回目)。『白鳥の湖』黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥのほかオペレッタメリー・ウィドウ』より「メリー・ウィドウ・ワルツ」を山口と宮本の唄にあわせて踊った。神奈川出身の上野は「かながわ観光親善大使」を務めることでも知られよう。今秋結婚式を挙げた上野と高岸は息の合ったパートナーシップをみせていた。
楽しく華やかに盛り上がった会だったが、MCの宮本は曲の合間に「今年は大変な年でした…」という風に語りはじめた。震災後、音楽家がいま必要とされているのか、何ができるのか自問をした。でも、すばらしい作品(曲)があり、それを聴きたい観客がいる以上は唄い・演奏していくのが使命。そのような意のことを熱意を込めて語っていた。公演の最後近くには岡本が「アヴェ・マリア」を祈りを込めて歌い感動を誘った。
また、神奈川フィルが近く予定される公益法人化に際し財政難のため存続の危機に瀕している旨が告げられた。「がんばれ!神奈フィル 応援団」が結成され、同時に、楽団内に「神奈フィル ブルーダル基金」が設けられている。舞台芸術界を取り巻く状況は極めて厳しいものがあるけれども、あらためてその現実を突きつけられた。


上野水香―バレリーナ・スピリット

上野水香―バレリーナ・スピリット


宮本益光とオペラへ行こう (旬報社まんぼうシリーズ)

宮本益光とオペラへ行こう (旬報社まんぼうシリーズ)


28日は両国のシアターΧでケイタケイ's ムービングアース・オリエントスフィア『水溜まりをまたぐ女』『かもめ』を観る。両方ともケイによるソロである。前者は伝説的なLIGHTシリーズのPart 35最新作だ。ケイは日本の現代舞踊の先駆者・檜健次&日本舞踊の藤間喜与恵に師事したのちジュリアード音楽院舞踊科に留学。アナ・ハルプリン、マーサ・グレアム、トリシャ・ブラウン等の下で学ぶ。アメリカン・ポストモダンダンスの最盛期のニューヨークで活動した彼女は、同地を拠点にムービングアースを結成する。1969年以降LIGHTシリーズを世界各地で繰り返し上演してきた。最初の作品の初演から40年を迎えた2009年以降、再びLIGHTシリーズ上演を本格的に開始している。
終演後、ロビーで行われた簡単な打ち上げの席で乾杯の音頭を取った評論家の大御所・うらわまことがケイはつねに「人と自然」の関係を描いてきたと触れた。大震災、原発事故の影響ははまだまだ大きい。「人と自然」について考えざるを得ない時節柄だ。うらわの指摘するように、ケイが一貫して追求してきた主題は、いま、一層アクチュアリティがあるといえるのではないか。彼女の創作は凡百の底の浅い安直な自然賛歌、生命礼賛とは一線を画する。自然の厳しさに対する畏怖をひしと伝えもする骨太の創作だ。祈りとは敬虔さから生まれる出るものという思いを新たにさせられた。
ケイの会が行われている同時刻、福島・いわきでは「オールニッポンバレエガラコンサート2011 in いわき」が催されていた。ユーストリームによる中継も行われた。所属を超えたバレエ・ダンサーが集いう震災復興支援チャリティーコンサート。自分たちに何ができるかを模索しながら震災後間をおかずプロジェクトを始動し、夏には東京公演を行った。その収益を基にして年内に被災地での公演にこぎつけた行動力を讃えたい。
「よいお年を」「あけましておめでとうございます」などと、気安くいえない雰囲気もある。が、少しでも2012年が良い年となるように願いたい。たとえ語るべき希望はなくとも、希望を見出すことができるのが人間であり、それを促すのが芸術の力であるかもしれない。2011年、そう感じさせてくれたすべてのアーティストに感謝と敬意を捧げたい。
(敬称略)