平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞発表 山本隆之、森山開次らに決定!

文化庁は12日、平成24年度(第63回芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞を発表した。
平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣賞及び同新人賞の決定についてhttp://www.bunka.go.jp/ima/press_release/pdf/geijyutsusensyo_130312_ver2.pdf
舞踊部門は以下のとおり決定した。
芸術選奨文部科学大臣
山本隆之(職業:バレエダンサー 授賞対象:「アンナ・カレーニナ」他の演技)

贈賞理由
山本隆之氏は新国立劇場のダンサーとして、ほとんど全ての作品で主役を踊り、同バレエ団では名実ともにトップダンサーである。氏のダンサーとしての資質は、まず気品があり、どんな役を与えられても自分自身の色に染め、誰にもまねの出来ない空間を創ることの出来る日本には稀な逸材である。平成24年3月の新国立劇場における「アンナ・カレーニナ」は、エイフマン振付のもので、高度なテクニックと豊かな表現力の必要な作品であるが、氏は見事にカレーニン役を自分のものとして熱演し、深い感銘を与えた。

芸術選奨文部科学大臣
吉村輝章(職業:日本舞踊家 授賞対象:「座敷舞道成寺」他の演技)

贈賞理由
上方舞四流の家元の中で吉村輝章氏は、生まれも活動の拠点も東京であるのが異色だが、吉村流六代目を継承後、流儀の結束に尽力。自身の大病をも克服して、近年は一段と円熟味が増し、味わい深い舞が注目されている。とくに本年は着流しで舞った長唄「座敷舞道成寺」(2月18日・国立劇場、10月13日・国立文楽劇場)が上方特有の品ある色香を漂わせ、格調高い舞台に仕上げた。他にも一中節「都見物左衛門」(5月3日・国立劇場)や上方唄「世界」(11月23日・国立劇場小劇場)で洗練された技芸と芸域の広さを示した。

文部科学大臣新人賞
森山開次(職業:ダンサー・振付家 授賞対象:「曼荼羅の宇宙」の成果)

贈賞理由
その柔軟な感受性と身体能力によって、舞踊のみならずミュージカルや演劇、テレビ等幅広いジャンルで活躍してきた森山開次氏は、日本の伝統文化への共感も深い。10月に新国立劇場で初演の「曼荼羅の宇宙」では、高木正勝演奏のピアノと対峙する渾身のソロ「虚空」と、5人の優れたダンサーを起用した「書」からなる二部構成の舞台を演出振付し、さらには自ら曼荼羅図を描く等多才ぶりを発揮。人間の生の営みを通して知の記憶を呼び覚ますと同時に、豊饒な精神を感じさせた。独自の世界観を知らしめ、舞踊の可能性を広げた功績を称えたい。

非常に権威ある顕彰である。日本のバレエ・ダンス史に残る大物舞踊家振付家でもタイミングを逸したためであろうが受賞していないケースも多々ある。
授賞理由や活躍ついては文化庁が公表しているものを参照されたし。新国立劇場での公演の受賞が連続しているが、目立つ場所において好条件で公演できる/踊れることも、運を含め実力であろう。
山本は2007年に新人賞を授賞済。それ以来の進境ぶりが評価されたのだろう。日本を代表するダンスール・ノーブルのひとりであり『アンナ・カレーニナ』カレーニン役は確かに名演だった(アンナ役の厚木三杏の好演も見逃せない)。選考基準の「これまでの業績に加え、将来性、年齢、他の受賞歴等も勘案して選出する」という点からすると、現在、山本は古典全幕の主役は踊らなくなりつつあり「将来性」という点で、やや引っかかる向きもあるかもしれない。しかし、何も主役だけがすべてではない。『シンデレラ』の義姉や平山素子『兵士の物語』悪魔などキャラクター役にも味をみせ独自の境地を開きつつあるのでフォローできそうだ。実績その他は申し分ない。
各種メディアに注目される森山に関しては秋の芸術シーズンまっさかりに新国立劇場主催公演で話題作を発表。ソロ作品に加え男性5人を使った群舞を発表した。これは彼にとって初となる本格的な群舞作品なのでは。ソロ公演等で魅せる美術的センスには独自のものがあり魅力的なクリエイターである。が、大人数を動かす振付家としては、まだこれからという面もあろう。今後のさらなる活躍を期待したい。なお第29回江口隆哉賞(制定:現代舞踊協会)とのダブル受賞となった。
贈賞理由に加え、このところ選考委員・推薦委員が発表と同時に公表されるようになった。さらに本年度は審査経過も明記されている。オープンな姿勢は望ましい。

選考経過
舞踊部門では選考審査員と推薦委員から、文部科学大臣賞の候補として11名、新人賞の候補として16名の名前が挙がった。まず例年に比べて推薦が少なかった大臣賞の候補者各人について、推薦した委員から活動の詳細と推薦理由が述べられた後、質問や議論が交わされ、推薦委員からの候補者に関しても、推薦理由と添付された資料をもとに意見が交わされて、全員で客観的情報を共有するに至った。次に新人賞候補16名について、同じ手順で議論が尽くされ、最終的に投票した結果、二次選考の対象として大臣賞候補4名、新人賞候補5名を残した。第二次選考審査会では、一次選考での議論に補足するかたちで意見が述べられた後、投票に移った。まず大臣賞で、1名が全員の賛同を得たが、残り1名の枠について、該当者なしとすることも含めて議論が行われ、結果的に地唄舞の吉村輝章氏、バレエダンサー山本隆之氏の2名を選出した。新人賞は最初の投票で3名にまで絞られたが、票数が等しく三者に分かれて難航し、長い議論の末に再度投票して、森山開次氏を選んだ。

選考委員
藍本結井(舞踊評論家)
池野惠(舞踊評論家)
佐々木涼子(東京女子大学教授)
篠原聖一(公益社団法人日本バレエ協会業務執行常務理事)
西村彰朗(演劇評論家)
丸茂美惠子(日本大学教授、舞踊評論家)

推薦委員
尼ヶ崎彬(学習院女子大学教授)
稲田奈緒美(舞踊評論家、昭和音楽大学バレエ研究所准教授)
上野房子(舞踊評論家、明治大学非常勤講師)
鈴木英一(聖学院大学講師)
高畠整子(朝日新聞企画委員(シニア・スタッフ)、社団法人当道音楽会理事)
永田宜子(新国立劇場運営財団研修主管)
長野由紀(舞踊評論家)
坂東亜矢子(演劇評論家)
平野英俊(舞踊評論家)
守山実花(尚美学園大学非常勤講師)