CAVA『罠』

CAVA(さば)『罠』
作・演出:丸山和彰
出演:黒田高秋/藤代博之/細身慎之介(劇団上田)/田中優希子/丸山和彰
(2008年11月26日 神楽坂die pratze)

マイムとダンスの融合した新感覚の舞台『空白に落ちた男』(演出・振付:小野寺修二)に出演、異彩を放っていた丸山和彰が所属するグループの公演ということで楽しみにしていた。マイムを主体とした身体表現を通して機知に富んだ舞台を創り続けているようだ。今回の『罠』は演劇畑からのゲストも招聘。男女のあいだでドラマやサスペンスが繰り広げられる。言葉ではあらわせないような人と人の間に生じる微細な感情の揺れ動きをシニカルにしかしユーモアを忘れずに描くあたりは心憎い。ダンサブルな場もあるし、展開にメリハリあって飽きさせない。マイムというしっかりとしたスキルを武器にしているだけに軽やかな演技のなかにも強度があるように感じた。

シアターアイスショー『眠れる森の美女』

シアターアイスショー『眠れる森の美女』
出演:The Imperial Ice Stars(インペリアル・アイス・スターズ)
(2008年11月15日 東京厚生年金会館)

フィギュアスケートのグランプリシリーズが行われ氷の上で熱戦が繰り広げられている。そんななかシングルやペア、アイスダンスの元メダリストを多数擁してバレエの演目をスケートで表現し人気を集めるインペリアル・アイス・スターズの来日公演を観た。2幕構成、100年の眠りに就いたオーロラ姫を助けるために王子だけでなくリラの精とカタラビュットが大活躍するという趣向がおもしろい。ストーリー展開も明快でジャンプやスピンといった技も随所に織り込まれ迫力があって楽しめた。フィギュアスケートは芸術スポーツとよばれバレエとの関係は深い。ロシア・バレエの名花、ニーナ・アナニアシヴィリは元フィギュアスケートの選手であったし、逆にフィギュアスケート選手も体を鍛え柔軟性を高めるためにバレエを習うことも多いようだ。日本でも氷上のバレリーナと評される太田由希奈浅田舞、真央姉妹などは早くからバレエのレッスンを受けていたのはよく知られる。シアターアイスショーは芸術スポーツをより深め総合芸術としてまたエンターテインメントとして多くの可能性を秘めているように思われた。

財団法人せたがや文化財団『友達』

平成20年度文化庁芸術拠点形成事業
財団法人せたがや文化財団『友達』
作:安部公房 演出:岡田利規
出演:小林十市麿赤兒若松武史木野花今井朋彦/剱持たまき/加藤啓/ともさと衣柄本時生/呉キリコ/塩田倫/泉陽二/麻生絵里子/有山尚宏
ポストパフォーマンストーク:岡田利規×野村萬斎
(2008年11月12日 シアタートラム)

演劇、ダンス、文学界で注目を集める岡田利規(チェルフィッチュ主宰)。自劇団の舞台では、若者言葉を脈絡なく垂れ流したような“超リアル日本語”と独特の身振りを特徴とする独自のメソッドを確立している。だが今回、安部公房の代表作を演出するにあたってチェルフィッチュでの方法論は使わなかった。『友達』は、ある平凡な男とその部屋に闖入し居座る9人家族の姿をシュールかつブラックに描いている。元ベジャール・バレエの小林、舞踏の麿はじめダンス、新劇、アングラ・小劇場演劇と多様な出自を持つパフォーマーたちの個性を尊重、彼らの発する言葉と動きが安部作品に新たな息吹を吹き込む。かってこの作品を某新劇団の公演で観たことがあるけれども、その際よりも抜群におもしろい。2時間半近くの長丁場ながら最後まで緊張が途切れなかった。

維新派『呼吸機械』

大阪を拠点に野外劇を上演し続けている劇団維新派。今回は滋賀県長浜市の琵琶湖畔に設えられた水上舞台での公演だ。北陸本線田村駅から少し歩くと仮設の劇場が見えてくる。すぐ側には維新派野外公演では恒例の屋台村。タイ風炊き込みご飯や熱々の豚汁などを求め食しつつ開演を待つ。傍らでは大阪の異色ユニットcontact Gonzoがパフォーマンスを行って観客を楽しませている。殴り殴られつつ触れ合うという、ガチなのか児戯なのかよくわからないおバカなことをする野郎どもだ。
会場時間になり仮設劇場に足を踏み入れると、なんとステージが湖の水際まで伸びている。文字通りの水上舞台。今回は<彼>と旅する20世紀三部作#2ということで欧州を舞台にしたものらしい。レジスタンスやナチススターリン主義といった20世紀の欧州の歴史が語られ、カインとアベルをはじめとして聖書から名を引用されたと思しき少年少女たちが時空を越え自在に旅する。維新派といえば「ヂャンヂャン☆オペラ」とよばれる、ラップのような独特の台詞とも歌ともつかぬものを発しながら集団でパフォーマンスすることで知られる。今回も台詞は少なく、パフォーマンスに傾斜した創りだ。圧巻は終幕。舞台の上にどこからともなく水が溢れてきて、その上で少年少女は繰返し、繰返し横たわっては跳ねる。やがては舞台と湖が同化していく――。
過去に観た維新派の舞台のなかでも特に感動的だった。場の魅力が最大限に活かされている。巨大な汽車、廃墟といった舞台美術も圧倒的。ただ、舞台上に展開されるイメージの数々のうちに、ワイダやアンゲロプロスの映画から引用したと思われるものが散見されたのは気になった(『灰とダイヤモンド』や『旅芸人の記録』『ユリシーズの瞳』などなど)。でもオマージュとして許容できる範囲かな。維新派のパフォーマンスに対して「ダンスか、あるいはダンスではないか」との議論があるけれども、今回あらためて思ったのは、どうでもいい、ということ。音と台詞と動きと舞台美術、そして場の特性などさまざまの魅力が溶けあったところに維新派の舞台の面白さがある。それを狭義にせよ広義にせよ「ダンス」という枠で取り上げても仕方ないように思う。
(2008年10月9日 滋賀県長浜市さいちか浜 野外特設劇場<びわ湖水上舞台>)

チェルフィッチュ『エンジョイ』

岡田利規(チェルフィッチュ)が新作『エンジョイ』を新国立劇場で発表した。


新宿の漫画喫茶(マンキツ)を舞台に、30歳を越えた年長フリーター達を中心に、現代日本ですでに可視化されつつある格差社会の“下流”を生きる彼らの、バイトや恋愛に対する態度が描かれます。そしてフリーターの問題を、今年フランスで起きた学生デモなどとも共通した、世界的に増加傾向にある非正規就労者の問題の一環としてとらえていきます。

コピーをみた際、いかにもの社会派的テーマに一抹の不安を覚えた。しかし、『マンション』(02)以降の作品に強いシンパシーを感じている異才・岡田のことだからありきたりな社会派作品にはなるまいと期待していた。

いわゆる若者言葉を脈絡なく垂れ流したかのような“超リアル日本語”と、それに連動する独特の身振り、手振りはいつもと同じ。テロップやビデオ撮影による映像も駆使して岡田演出は冴えている。しかし、これまでの作品とは明らかに演出家の目線が異なっているようだ。

『三月の5日間』(04)は若者の焦燥や不安を掘り起こすことで9・11やイラク戦争といった社会問題への疑念を提示していた。『寄港地』(05)では出生をめぐる“個人的な体験”を見つめることによりアクチュアルなテーマが浮き彫りになっていた。今回、ややテーマが先行している感は否めないだろう。フランスの学生たちによるデモ映像を用い日本の若者たちと対比させる演出も、計算が鼻につくかもしれない。

役者たちの身振り手振り――個人的にはチェルフィチュ振りとよんでいるが――も会場が広いこともあり計算してのことに違いないがオーバーアクト気味か。全体的にマスを意識した構成・演出なのは確かだ。疑問も感じたが刺激的な舞台なのは間違いない。新国立劇場の観客に “生産的な摩擦”を起したいという岡田の狙いは十分達成されたと思う(これはスノッブな次元での話題だが、さる高名な演劇評論家が終演後拍手もせず憤然と席を後にするのを目撃)。