BennyMoss、ダンスカンパニーカレイドスコープ、ラ ダンス コントラステ、東京シティ・バレエ団、深谷莉沙

5月前半も多くの公演が行われました。松山バレエ団『シンデレラ』、Kバレエカンパニー『ジゼル』、デンマーク・ロイヤル・バレエ団『ナポリ』等も観ましたが、ここではあまり取り上げられない創作もの、コンテンポラリー・ダンスについて簡単に。
Benny Moss『jellybeanZ』
垣内友香里の主宰するBenny Mossの単独公演は、死者への供華、葬式をモチーフにした一晩ものでした。jellybeanZとは、外が固く中がゼリー状のポケット菓子。舞台にばら撒かれて…。垣内と青山るり子、畦地真奈加という個性的かつ重量感たっぷりの踊り手のパーソナリティが魅力的でした。個々の過去や現在について虚々実々の会話を交わしていく場やユニゾンを踊る場で三人のビミョーな差異がおもしろい。しかし、そんななかに、現代の寄る辺なく生きる若者の実感のようなものがなんとなしに浮かび上がって来ます。無差別殺人事件を題材に演劇的手法も取り入れて個に潜在する狂気や暴力を怜悧に見据えた前作『ONE』もそうでしたが、私的感覚に留まらず社会との接点を見据えた創作を模索している垣内の動向は今後も注目されるところです。
(2009年5月5日 日暮里・d-倉庫)
ダンスカンパニーカレイドスコープ「Dance Gathering Performance」
ダンスカンパニーカレイドスコープを主宰する二見一幸が指導する各スタジオの有志が集って行うもの。新旧4作品とも二見の振付ですが、ダンサーの存在と空間を捉える鋭い感覚、動きそのものを追究する美学にみたされています。若手にハードに踊らせるもの、袖の長い衣装による制約が意想外の動きを造形するもの、切り替えの早い動きの連鎖でありつつ流動感に富んだものなど多彩で、二見の才人ぶりを如何なく発揮していました。若手〜中堅に伸びているダンサーがいて成長が楽しみ。それにしても金森穣のNoismのように、プロの舞踊団としての環境が整っているのならともかく、日々消費され疲弊するアーティスト・ダンサーもすくなくない現在の首都圏のダンスシーンにおいて、一民間グループがここまで錬度の高い表現を行っているのは驚嘆に値します。
※他に書く予定があるため、詳しい内容はそちらに譲ります。
(2009年5月13日 北沢タウンホール)
ラ ダンス コントラステ第13回アトリエ公演『REFLET』
佐藤宏の主宰するラ ダンス コントラステは“コンテンポラリーな感覚でクラシックバレエをとらえ、都会的でセンスあふれる作品”を発表しています。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』などバレエの古典を大胆に翻案した作品が注目されています。今回の『REFLET』に明確な筋はありません。ここでは、佐藤の多用する、ダンス・クラシック(バレエの動き)をずらしたアン・ドゥダンすなわち内足のステップを織り交ぜた動きを用いつつダンスが続きます。ペルトなどの音楽にのせ、陰影に富んだ照明が天上から吊るされた鏡の形作る迷宮に混沌と秩序を与え、佐藤ならではの美意識を開示していました。
(2009年5月14日 東京芸術劇場小ホール1)
東京シティ・バレエ団「ラフィネ・バレエコンサート」
東京シティ・バレエ団恒例のコンサート。三部構成で1部に金井利久『パキータ』、3部に石井清子『ジプシー・ダンス』が発表されましたが私的に注目したのは2部でした。中島伸欣『フィジカル・ノイズ』『ロミオとジュリエット』はいずれも男女の関係を描いたものです。薄井友姫&キム ボ ヨンの踊った前者は現代バレエならではの硬質な動きのなかにほのみえる情感が得難く、橘るみ&黄凱による後者はいわゆる「バルコニーの場」のパ・ド・ドゥですが恥じらいやピュアな心情から互いに愛にみたされ身を委ねあうプロセスがポアント技からリフトまで多彩な語彙で鮮やかに描かれていました。中島作品の間に上演されたのが新鋭・小林洋壱の『Without Words』。これも男女2人(志賀育恵&チョ ミン ヨン)の関係性を描くもので、マーラー交響曲第5番第4楽章「アダージェット」を用いています。昨年のデビュー作『After the Rain』同様、誠実で好感の持てる作品であり、前作の課題であった語彙がやや乏しい点に関しても工夫は感じられました。しかし、練達の中島作品に挟まれては分が悪い。「なぜその振りが必要か」がいまひとつ伝わってこない箇所も。その意味では再考の余地があるように感じました。
(2009年5月17日 ティアラこうとう大ホール)
深谷莉沙ソロダンスパフォーマンス『eating girl』
クラシック・バレエコンテンポラリー・ダンスを深見章代に師事、ダンスカンパニー高襟のメンバーとして活躍するLilyこと深谷莉沙。モデルとしても活動し、西麻布の隠れ家的バーを借りて行われた「中島圭一郎×深谷莉沙 写真展」のクロージングイベントとしてソロダンス『eating girl』を披露しました。深谷の魅力は強烈なまでの少女性と大人びた雰囲気が同居していることにあります。振付の深見はその点をよく捉えていて、ケーキやサラダを貪り食う場、赤い靴を脱ぎ足指を口に入れたり、ストリップまがいに衣装を脱ぐところなど、いい意味でのベタなロリータ的イメージと、女性のはらむ生理的感覚をうまく融合させていました。深谷はまだ踊り始めてわずかであり、ダンサーとして云々はいえませんが、磁力ある存在感と物怖じしない強い姿勢に加え、ナルシズムに陥らないクレバーさも備えています。今後一層注目されるアーティストになる予感。
(2009年5月17日 西麻布・the Robin's nest)