追憶:針生一郎、勅使河原宏、荒川修作、山口小夜子

先日、前衛美術評論で知られる針生一郎の死去が報じられた。針生は、反権威的・アヴァンギャルドな評論で知られ、1960年代以降現在に至るまでのアートシーンを語るうえで欠かせない論客のひとりだった。近年では、長編ドキュメンタリー映画「日本心中」や若松孝二監督「17歳の風景——少年は何を見たのか」などへ出演してもいる。
針生が評論活動をはじめた60年代は、美術のみならず、映画、音楽、舞台とさまざまな芸術ジャンルで新潮流が世界的に生まれ、日本でもそれは同様だったのは周知のとおり。そんな前衛芸術の震源地・メッカとして草月アートセンターが知られよう。旧草月会館の落成後1958年に勅使河原宏をディレクターとして発足、諸ジャンルのアーティストが交流し、プロデュースする公演がやイベントが行われた。ジョン・ケージマース・カニングハムらの来日公演、土方巽寺山修司らの舞台も行われている。
勅使河原といえば、いけばなの草月流3代目家元として知られるが、若き日には岡本太郎安部公房らと前衛芸術グループ「世紀」を結成し、その後、映画監督として活躍する。安部原作「砂の女」「他人の顔」やドキュメンタリー「サマー・ソルジャー」などが代表作。「砂の女」はカンヌ国際映画祭にて審査員特別賞を受け、アメリカ・アカデミー賞監督賞にノミネートされるなど日本映画としてもっとも国際的評価を得たひとつだろう。後年はオペラの演出や舞台美術、イベントプロデュースでも幅広く活躍した。
勅使河原とは字が違うし、当然血縁関係もないが、読みが同姓ということ、世界的に著名ということでいえば、ダンス・ファンには勅使川原三郎の名が浮かぶだろう。実際リンクしていたり似た点はなくもない。オペラ「トゥーランドット」をそれぞれ演出していたりするし、勅使川原も活動の初期からダンスを軸としつつも折々に映画・映像作品を撮っている。ところで、勅使河原と勅使川原――両者の作品に関わったアーティストがいる。
それは2年前に急逝した山口小夜子。世界的モデルとして一世を風靡し、女優・パフォーマーとしてカリスマ的人気を誇った。勅使川原三郎の初期〜中期のダンス作品や映像作品に出演しているのはダンス・ファンにはおなじみだ。いっぽう勅使河原作品では映画「利休」に茶々役で登場し、出演時間は少ないが強烈な印象を残す。山口は舞台では他に天児牛大作品に出演するほか天児演出のオペラで衣装を担当。映画では寺山修司上海異人娼館 チャイナ・ドール」や鈴木清順ピストルオペラ」といった異色作に出演した。勅使河原や寺山より世代は随分と下だが、60年代の前衛芸術の息吹も受けて、80年代、90年代、それ以降と走り抜けた異才としてあらためて記憶したい。
針生の少し前に亡くなった現代美術家荒川修作も60年代初頭からニューヨークに渡って旺盛に活動し死ぬまで現役であったが、自身がマドリン・ギンズと制作した環境デザインと勅使川原のダンスが相通じるものとして認識し、勅使川原のダンスについて書いたりもしている。アートのさまざまのムーブメントは、時代を超え、リンクしあって、いまの我々のまえに現前する。そのことをあらためて感じさせられるこの頃である。


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