舞踊評論家・桜井勤氏が死去

音楽・舞踊・演劇・映像の綜合専門紙「週刊オン★ステージ新聞」7/12号(第1970号)によると、舞踊評論家の桜井勤氏が6月14日に死去されたとのこと。享年95歳。6月5日に肺の病気のため老人病院に入院し療養していたが間もなく亡くなられたという。
氏は従軍後、戦後に平凡社林達夫のもと辞書編纂などに携わる。1960年代から本格的に舞踊評論をはじめ「音楽新聞」「現代舞踊」「ダンスマガジン」「BALLET」などに長年にわたって執筆を続けた。バレエ・現代舞踊・児童舞踊・日本舞踊・民族舞踊等ジャンルを問わずオールラウンドに活躍。各地の公演も回られていた。(旧)文部省や文化庁の各委員、各舞踊賞・コンクールの選考委員・審査員を歴任した。いまでは会員数が大幅に減少し洋舞方面に人材も少ないため寒々しい状況を呈している舞踊批評家協会が、かつて権威あった時期の事務局も務められていた。
晩年は体調を崩し劇場に足を運ばれなかった。最後に氏をお見かけしたのはいつだっただろう。2007年末ル・テアトル銀座で行われた小島章司フラメンコ「戦下の詩人たち 《愛と死のはざまで》」の会場でお話ししたのは覚えているが、その後しばらくして公演会場でお姿をおみかけすることはなくなった。とはいえ外出できないもののお元気だと耳にしており「セーヌ」誌に昨秋まで「桜井勤のSTAGE WATCHING」を連載されていた(現在は rememberと題し過去記事ダイジェスト掲載)。
私的に深い交流はなかったが「いつも記事を読んでいるよ」と声をかけていただき大御所・長老ぶらない気さくな方だと感じていた。実際、温厚篤実な人柄によって親しまれ多くの舞踊家たちに信頼され愛された評論家であった。私なども「桜井先生にお世話になった、今もお元気ですか?」と聞かれることが少なからずある。戦後の舞踊界を見守り続けてきた証人のひとりが、またひとり世を去った。謹んで冥福を祈る。

平成25年度新進芸術家海外研修制度採択結果発表

文化庁の「新進芸術家海外研修制度」は、美術・音楽・舞踊・演劇・映画・舞台美術等・メディア芸術の各分野における新進芸術家に海外の大学や芸術団体・芸術家等への実践的な研修に従事する機会を提供するもの。1年派遣、2年派遣、3年派遣、特別派遣(80日間)の4種類があり、平成23年度末までに3,008名を派遣している。(以上、文化庁HPより)
平成25年度の採択結果が発表された。
平成25年度新進芸術家海外研修制度採択一覧
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/05kenshu/pdf/25_shinshin.pdf
今年度の応募は全分野・派遣年数あわせ313で採択は79。採択率は25.2%である。前年よりもアップしているが、やはり「狭き門」である。
舞踊の採択者は12名(前年11名)。

1年 350日 松理沙モダンダンス アメリカ・ニューヨーク
1年 350日 木場裕紀 コンテンポラリーダンス、舞踊教育 アメリカ・マディソン
1年 266日 平原慎太郎 振付、演出、舞踊家スペイン・マドリッド
1年 350日 井田亜彩実 コンテンポラリーダンス イスラエル・テルアビブ
1年 350日 前納依里子 コンテンポラリーダンス ドイツ・ベルリン
1年 350日 星利沙 現代舞踊 アメリカ・ニューヨーク
1年 350日 津田ゆず香 現代舞踊(振付・ダンサー・モダンダンス) アメリカ・ニューヨーク
2年 700日 長谷川まいこ 現代舞踊・振付 フランス・パリ
2年 700日 渡辺恭子 クラシックバレエ ドイツ・カールスルーエ
特別 80日 稲毛やよい ジャワ舞踊 ヨグヤカルタ形式 インドネシアヨグヤカルタ
特別 80日 池田素子 現代舞踊 アメリカ・ニューヨーク
1年(15歳以上18歳未満) 350日 南帆乃佳 コンテンポラリーダンス オランダ・アムステルダム

松は富山の和田朝子舞踊研究所所属で東京新聞主催全国舞踊コンクール第一部第1位などコンクールでの上位入賞歴多数。木場はコンクールの創作部門で入賞歴がある。東京大学大学院にて学び、舞踊学会でも発表を行っている。平原は元Noismメンバーで現在はコンドルズに出ている人気ダンサー。近年は振り付けにも進出。井田は筑波大学で平山素子に師事し東野祥子のBABY-Qなどにも参加している。国際コンクール含め大小様々なコンペで入賞歴あり。前納はお茶の水女子大学出身で加賀谷香に師事。JCDN「踊りに行くぜ!」で作品発表もした。星は秋田の川村泉舞踊団所属でコンクールや現代舞踊協会の公演で活躍する若手実力者。津田は井上恵美子ダンスカンパニーのメンバー。近年各種コンクールで上位を占め井上作品には欠かせない。
長谷川は二見一幸のダンスカンパニーカレイドスコープ等の活動に参加し埼玉全国舞踊コンクール現代舞踊シニア部門で第1位に輝いている。公私のパートナー坂田守と共作した『amulet』で東京新聞主催全国舞踊コンクール創作部門第1位。前年ひと足さきに坂田が在研(2年)を得たため同時にパリに移住した。才人ふたりが何を学んで帰ってくるのか気になるところ。渡辺はスターダンサーズ・バレエ団で主役経験もある注目のバレリーナ。伊藤胡桃に師事しドイツのライプツィヒで踊っていたこともある。テクニックが正確で踊りの表情が豊か。古典やバランシン、鈴木稔作品など何を踊らせても目をひく存在だ。
池田は現代舞踊界の中堅屈指の舞踊家振付家のひとり。昨秋初の単独公演を行った。指導者としても評価が高い。
南帆は児童舞踊界の超名門・平多正於舞踊研究所所属で現代舞踊のコンクールジュニア部門で好成績を挙げている。
稲毛については当方不勉強なので活動を実際に把握しておりません。
今年はバレエの人が例年に輪をかけて少ないかも。それに女性がほとんど。あと採択者の分野について「現代舞踊」「モダンダンス」「コンテンポラリーダンス」というジャンル分けが、もはやよくわからない感じもする。自称なので何でも構わないが。
とにもかくにも近年はいろんなタイプの人が選ばれていて良い傾向。応募書類提出に関しては芸術団体経由でなくとも都道府県・政令指定都市に出せる。コンクール等での賞歴などが重視されるのでは?とあきらめる人もいるかもしれないが、そういったタイトルを持っていないような人でも最近は採択されている。一定の実績があり、受け入れ先と推薦書がしっかりしていれば可能性あるのでは。数年前には舞踊家振付家ではなくバレエのレッスンピアニストを派遣したこともあった。音楽の枠ではまず無理だろう。いろいろ意見もあろうが、裏方だけれども重要な仕事を担う若者にチャンスをあたえる良い選考に思う。
在研制度はなかなか恵まれていて、往復の航空賃(エコノミークラスの実費)と支度料(2万5千円)のほか滞在中は日当・宿泊費が支払われる(地域や研修期間によって支給額は異なる)。人材育成支援というのは、すぐに結果の出ないもの。文化予算の削減という話になると、真っ先にやり玉にあがるところだ。以前よりも予算は縮小しているとはいえ、それでも長い目で見て芸術界の将来を担う人にチャンスが開かれているのは喜ばしい。日本には劇場文化がないしプロフェッショナルと呼べるカンパニーも少ない。「本場」という言葉を安易に使いたくないが、ただ自分が踊る・創るだけでなく、恵まれた環境に身を置き、広範な視点から舞台芸術を考えられるまたとない機会だろう。



東京新聞制定 平成25年度 舞踊芸術賞に花柳茂香(邦舞) 森嘉子(洋舞)が決定!

東京新聞制定の平成25年度「舞踊芸術賞」の受賞者が1日、公表された。
邦舞は日本舞踊の花柳茂香、洋舞はアフロダンスの森嘉子に決まった。
平成25年度 受賞者 邦舞 花柳茂香さん 洋舞 森嘉子さん
http://www.tokyo-np.co.jp/event/bu/gei/
功成り名を遂げた大御所にあたえられるのが通例。ただ例外はあって、先日紫綬褒章を受章し、メディアでも大きく取り上げられた熊川哲也は平成14年度に、日英を中心に華々しい活躍が認められたプリマ・バレリーナ吉田都は平成17年度に受けている。ともに若き日の受賞である。
今回の受賞者の森は、わが国におけるアフロダンスの先駆者。邦舞では流派を問わず、洋舞でもジャンルを問わずに選出してきた同賞の面目躍如たるものがある。
森嘉子インタビュー ダンス・舞踊専門サイト「DANCING DANCING」
http://www.kk-video.co.jp/coverstory/vol/022/index.shtml
また、森の活躍と業績について少し前のものになるが、うらわまこと氏の記事も詳しい。
独自の境地を開く アフロダンスの第一人者 森嘉子(PDF)
http://www.zenkoubun.jp/print/geijyutu/art16/42-43.pdf#search='%E6%A3%AE%E5%98%89%E5%AD%90+%E3%81%86%E3%82%89%E3%82%8F%E3%81%BE%E3%81%93%E3%81%A8
高い芸術性とともに楽しさを追求する森嘉子 舞踊作家協会4月月例公演・ちょっと素敵なショウタイム
http://www.kk-video.co.jp/column/dancereview/vol/002.shtml

熊川哲也が紫綬褒章を受章!

政府は28日、平成25年春の褒章受章者を発表した。芸術や学問などの分野で功績を残した人を対象とする紫綬褒章が20人に贈られ舞踊界からはK-BALLET COMPANYの芸術監督で舞踊家振付家熊川哲也が選ばれた。
41歳での受章というのは快挙といえる。が、実績からして受章に異論はないだろうし、データ的に見ても2005年度に各芸術分野それぞれにおいて優れた業績をあげ新生面を開いた人にあたえられる芸術選奨文部科学大臣賞(舞踊部門)を受けていること、橘秋子賞特別賞、東京新聞制定 舞踊芸術賞という中堅以上〜大御所級に贈られることが多々ある重要な舞踊賞を若き日に既に受けていることからして順当である。吉田都、下村由理恵、斎藤友佳理という熊川の少し年上の舞踊人で、芸術選奨を受けている人が相次いで紫綬褒章を受けていることからしても熊川が来て当然である。
熊川の活躍を今さら記すこともないだろうが簡単に振り返る。15歳で英国ロイヤル・バレエ学校に留学。1989年には第17回ローザンヌ国際バレエコンクールにおいてゴールドメダルを受賞した。 同年、英国ロイヤル・バレエ団に東洋人初の入団を果たし最年少でソリストに昇格する。1993年にはプリンシパルに昇進した。退団後の1999年にはKバレエカンパニーを創立。自らの手による古典の再演出やローラン・プティフレデリック・アシュトンらの作品をレパートリーに加え、年間50回ほどの公演を全国各地で行なうプロフェッショナルなカンパニーに成長させたのは周知の通りである。
個人的には熊川の新演出による古典全幕のほとんどを初日に観てきた。なかでも2004年の『コッペリア』『ドン・キホーテ』、2005年の『くるみ割り人形』を経て2007年に新制作した『海賊』はKバレエのハイライトのひとつだと思っている。折しも「ダンスマガジン」の最新号(6月号)の特別企画中で熊川の盟友スチュアート・キャディがKバレエの特別な瞬間、頂点のひとつとしても挙げている。東京文化会館での初日はコンラッドがキャシディ、メドーラが吉田都、アリが熊川という、ありえないくらいの豪華な布陣。熊川独自の解釈による構成・演出がおもしろかったことに加え、大スターたちの奇跡的ともいえる共演に目くるめくような興奮を覚えたのだった。
が、その『海賊』初日から間を置かない札幌での公演において熊川は負傷・降板してしまう。Kバレエ創設以来の大ピンチである。暗雲漂ったかに見えたが、熊川は復帰し、『ベートーヴェン 第九』『ロミオとジュリエット』という新制作を成功させた。2012年にはBunkamuraオーチャードホール芸術監督就任を記念して自らの出演なしに演出・振付に徹した『シンデレラ』を創作。8公演をソールド・アウトさせるという記録的なヒットを叩き出した。踊り手としても円熟の境地にあり、先日の『ベートーヴェン 第九』の再々演では、圧倒的な技量とオーラで観客を興奮の渦に巻き込んだ。
興行としてのバレエを成功させること、国際感覚に裏打ちされたカンパニー運営を行うこと。熊川は、それらの点において、パイオニアの故・小牧正英や世界レベルで抜きん出た活動を行っている佐々木忠次らの仕事を受けて懸命に邁進しているように思える。自らのスター性・ブランドを大いに自覚し社会にメディアに大きくアピールする。TBSと提携し、オンワードを特別協賛に向かえるなど水際立った運営手腕を発揮する。いっぽうで、カンパニーの附属バレエスクール・Kバレエスクールを設立。小石川、恵比寿、吉祥寺、横浜に開校。大人のためのバレエスタジオ「バレエゲート」を併設する。バレエスクールからはカンパニーへの入団者も増えている。教育面への目配りも怠らない。
ただ、いかにスーパースターでカリスマの熊川とはいえ人の子だ。バリバリに踊れる期間は限られている。そうなったときにカンパニーの運営をどうしていくのか危惧する向きもあるだろう。が、彼の知名度と実績は圧倒的である。バレエ=熊川という認識は彼が本格的に踊らなくなっても揺るがないだろう。個人のカンパニーの問題だけでなく日本のバレエの発展のためにも熊川の活躍は絶対に必要である。厳しいご時世ではあるが、熊川がいかに日本のバレエの将来をデザインし引っ張っていくのか興味は尽きない。若き日から日本のバレエ界に対し苦言含め誰よりも率直に提言してきた彼のことだから大所高所からの行動・発言に重みがあろう。熊川の言動に日本バレエの将来がかかっていると言うのも大げさではない。言動がますます注目されるところだ。



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あいちトリエンナーレ2013・パフォーミングアーツ概要発表

今夏から秋にかけて国際芸術祭・あいちトリエンナーレ2013/Aichi triennale 2013が行われる 。
2010年に続く第二回目となる今回は“「揺れる大地—われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」をテーマに掲げ、東日本大震災後のアートを意識しつつ、世界各地で起きている社会の変動と共振しながら、国内外の先端的な現代美術、ダンスや演劇などのパフォーミングアーツ、オペラを紹介”する。
会期は2013年8月10日(土)〜10月27日(日)の79日間。会場は愛知芸術文化センター名古屋市美術館名古屋市内のまちなか(長者町会場、納屋橋会場など)、岡崎市内のまちなか(地区は未定)。芸術監督は五十嵐太郎(東北大学大学院工学研究科教授・都市・建築学)。
前回、パフォーミングアーツ部門では、ローザスアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルヤン・ファーブル平田オリザ、平山素子、ニブロールチェルフィッチュらによる領域横断的な意欲作を取り上げ成功を収めた(愛知発の芸術批評誌「REAR」第25号に依頼されパフォーミングアーツ部門の見た範囲での総評を記した)。今回のラインナップも気になるところだが、22日、おおよその全貌が明らかになった。

企画概要(平成25年3月22日現在)(PDF/5.75MB)
http://aichitriennale.jp/press/item/250322kikaku.pdf
参加アーティスト(平成25年3月22日現在)(PDF/1.99MB)
http://aichitriennale.jp/press/item/250322kikaku.pdf
リリースによると、国内外から15程度の団体が参加し、愛知芸術文化センターを中心に上演される。ダンス、演劇、造形美術、建築等の垣根を越えた作品を重んじるようだ。テーマである「揺れる大地—われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」は、不条理劇で知られるサミュエル・ベケットの世界感と通じるということで、「われわれが立っている場所を見つめ直す」ということをコンセプトに展開していくという。
舞台公演等スケジュール

愛知芸術文化センター大ホール公演
プロデュースオペラ・プッチーニ作曲『蝶々夫人 9月14日(土)、16日(月・祝)

愛知芸術文化センター小ホール公演
ままごと『日本の大人』(仮称・新作) 8月10日(土)〜15日(木)
藤本隆行白井剛『Node/砂漠の老人』(新作) 8月23日(金)〜25日(日)
やなぎみわ『ゼロ・アワー 東京ローズ最後のテープ』(仮称・新作) 8月30日(金)〜9月1日(日)
梅田宏明『4.temporal pattern』(日本初演)ほか 9月6日(金)〜8日(日)
イリ・キリアン『East shadow』(仮称・新作) 9月13日(土)〜15日(月・祝)
清水靖晃『未定』 9月28日(土)予定
ARICA+金氏徹平『しあわせな日々』(予定) 10月12日(土)〜14日(月・祝)
ジェコ・シオンポ『Room Exit(Terima Kost)』(日本初演) 10月18日(金)〜20日(日)
(日本初演)マチルド・モニエ『Pudique Acide/Eatasis(restaging)』10月26日(土)〜27日(日)

愛知県美術館ギャラリーG展示
ペーター・ヴェルツ+ウィリアム・フォーサイス『whenever on on on nohow on | airdrawing』(映像インスタレーション)(日本初演)

まちなか公演スケジュール

長者町会場周辺
ほうほう堂『ほうほう堂@あいちトリエンナーレ201』(仮称・新作) 9月21日(土)〜22日(日)

オアシス21周辺
プロジェクトFUKUSHIMA!(総合ディレクション:大友良英)『プロジェクトFUKUSHIMA! in AICHI』(仮称・新作) 9月7日(土)〜8日(日)

岡崎地区 康生地区
向井山朋子+ジャン・カルマン『FALLING』(仮称・新作) 公演日未定

最大の話題は世界的振付家イリ・キリアンに委嘱した『East shadow』(仮称・新作)だろう。“ベケットの哲学から着想されたダンスパフォーマンス。生と死をテーマに、シリアスかつユーモラスな物語が繰り広げられ”るという。
海外公演が圧倒的に多い振付家・ダンサーの梅田宏明も注目される。国内での本格的な単独公演は前回の「あいちトリエンナーレ2010」以来ではないか。アジアへの目線も感じられる。インドネシアの伝統舞踊やヒップホップを独自に織り交ぜた作風で知られるジェコ・シオンポを招聘。「ダンストリエンナーレトーキョー2012」でも紹介されたが今回はカンパニーの単独公演を行う。演劇では愛知出身で「ままごと」を主宰する柴幸男の新作がある。多年代の観客層に訴える作品を生んできたのも起用のポイントか。
美術家で近年、演劇活動も行うやなぎみわ『ゼロ・アワー 東京ローズ最後のテープ』、藤本隆行白井剛が内外でツアーを重ねたマルチメディア作品『true/本当のこと』に続いて組んだ『Node/砂漠の老人』、キリアン新作に作曲・ピアノで参加する向井山朋子が照明家ジャン・カルマンと共同作業を行う『FALLING』なども。まちなか公演やギャラリー展示など前回好評を博した企画を受け継いでの展開が楽しみだ。
前回のトリエンナーレ以後、名古屋/愛知では「パフォーミングアーツ熱」が高まっていると知人の地元在住関係者は口々に語る。地元団体参加による「祝祭ウィーク事業」も含め盛り上がりをみせている。前回の成功を受けてのさらる取組みに期待したい。
パフォーミングーアーツのチケット発売は6月下旬予定。
なお、パフォーミングアーツの担当者は以下の通り。プロデューサー:小崎哲哉[統括]、前田圭蔵、藤井明子(愛知芸術文化センター)、唐津絵理(愛知芸術文化センター)、愛知県国際芸術祭推進室:阿部晃久



わが星

わが星




「小牧正英先生を偲ぶ会——七回忌にちなんで——」

3月20日(水・祝)春分の日、都内のホテルにて戦後バレエのパイオニア小牧正英(1911〜2006)の7回忌を偲ぶ会が行われた。
小牧は岩手に生まれた。上京して目白商業高校を卒業したのちハルビンの音楽バレエ学校に学び、魔都と呼ばれた上海のライセアム劇場を拠点にしていた「上海バレエ・リュス」の中心ダンサーとして活躍した。これは帝室マリインスキー劇場のOBやディアギレフのバレエ・リュスの残党からなるカンパニーで、幅広いレパートリーを誇っていた。そこで主役含め多くの役柄を踊っていたのである。戦後帰国後は第一次東京バレエ団による『白鳥の湖』全幕日本初演(1946年)に際して主導的な役割を果たす。その後も小牧バレエ団を主宰し数々の古典バレエや近代バレエを紹介した。
1940年代後半から60年代頭にかけて一時代を築いた小牧バレエからは日本バレエを発展させてきた多くの舞踊家・指導者が生まれている。現在、同門会はないが世話人(高橋好子・水口和子・鈴木光代・田村征子・木村公香)が、最初期の弟子にあたる谷桃子・関直人との連名によって7回忌の会への参集を呼び掛けたところ多くの古参門下が集った。
木村の司会により進行。小牧への感謝の思いと、小牧の業績を伝承していきたい旨が語られた。参会者全員による献花に続き、関、佐々保樹という重鎮の挨拶となった。小牧に憧れバレエをはじめた関そして関の踊る姿に惹かれバレエにのめりこんでいったという佐々の思い出話を一同懐かしそうに聴き入る。舞踊評論家・山野博大が『白鳥の湖日本初演の前後で日本のバレエは変わり興行としてのバレエが根付いたということを話し小牧を称えた。舞踊評論家・うらわまことの音頭で献杯し歓談に移った。
会場のそこかしこでOBたちが旧交を温めあう姿がみられた。何十年ぶりという邂逅もあったという。関、横井茂、佐々、橋浦勇、雑賀淑子、尺田知路、由井カナコ、岡本佳津子ら日本バレエ史を彩ってきたそうそうたる面々の姿も見えた。来賓の菊池宗(小牧の甥で遺志を継ぎ東京小牧バレエ団団長を務める)、糟谷里美(「日本バレエのパイオニア〜バレエマスター小牧正英の肖像」著者)のスピーチや親族代表による挨拶も。会場には貴重な写真や資料も展示され見入るOBの姿があった。
小牧の活躍によって日本のバレエは劇的に飛躍向上したのは疑いないだろう。各スピーチからも、そのことがうかがい知れた。先人の遺した遺産を、どうつなげ発展させていくかが問われてくる。日本バレエの過去・現在・未来について思いをはせる好機だった。
舞踊評論家/ジャーナリストの出席者は山野博大、うらわまこと、伊地知優子、谷孝子、中島園江、池野惠、高橋森彦(順不同)。チャコット株式会社の早川社長と山田常務も来賓として参加していた。


日本バレエのパイオニア―バレエマスター小牧正英の肖像

日本バレエのパイオニア―バレエマスター小牧正英の肖像


第44回(2012年)舞踊批評家協会賞・同新人賞が決定!

第44回舞踊批評家協会賞ならびに同新人賞が決定した。
2012年1月1日から12月31日までに日本国内で公演された舞踊活動が対象。
第44回(2012年)舞踊批評家協会賞、新人賞が決定
http://www.chacott-jp.com/magazine/news/other-news/442012.html

舞踊批評家協会賞
笠井叡麿赤兒 
『ハヤスラヒメ 速佐須良姫』(構成・演出・振付:笠井叡)は舞踏の異種混合ともいうべき画期的な舞台で、それぞれの若手軍団を率いた両巨頭の存在感は圧倒的で、これからのダンスシーンの可能性を予測させる成果だ
小林紀子バレエ・シアター
09年から『眠れる森の美女』『マノン』『アナスタシア』とマクミランの大作を初演。とりわけ『アナスタシア』は、歴史の一断面を鮮烈に描き、近年のバレエ表現のひとつの頂点に至った点に対して
花柳壽輔
「日本舞踊×オーケストラ」---伝統の競演----に置ける『牧神の午後』『ボレロ』の振付、及び5曲の企画、総合演出の成果に対して

舞踊批評家協会賞新人賞
大橋可也
『ウィスパーズ』『断崖』において、尖鋭的かつ繊細な舞台を独特の空間を生かして展開した成果に対して
花柳源九郎
新作『走れメロス』における卓越した表現力に対して
福岡雄大
2012年は新国立劇場バレエ団の『マノン』『シルヴィア』『シンデレラ』ほかの主要作品に主演を果たし、強靭なエネルギー溢れる舞踊を踊った
南阿豆
舞踏ソロ『傷跡』『傷跡II』の両公演で、自らの肉体的痕跡に萎縮することなくバネにして、激情と悲痛さの両極端にわたってダイナミックに踊りきったエネルギーは今後、おおいに期待できる

同協会は評論家有志による団体。3ヶ月に一度例会を持ち、年明け2月半ば頃に最終審査を行い、前年度の公演のなかから協会賞3〜5件、新人賞2〜3件程度を選ぶ。

過去の受賞者リストをみると、わが国の舞踊史が一望できる。あらゆるジャンルの舞踊から受賞者を選ぶ視野の広さと、国の顕彰や民間の財団等の賞とは違った独自の選択眼のバランスに定評あった。
会員はもちろん評論家。かつて故・村松道弥、故・江口博、故・早川俊雄ら戦後の代表的な評論家・ジャーナリストにはじまって現在の長老格の山野博大、うらわまことらが主導的な立場にあった。1990年代〜2000年代初頭くらいまではバレエやコンテンポラリー・ダンス系の中堅や文化人も多く参加し会員が30人ほどいた時期も。紆余曲折を経て現在の会員は15名ほどになっている。
評論家の団体が賞を出すことに賛否あろう。賞を出すならば推薦理由が明確であること、推薦者が対象舞台を含むジャンルにおいて業界内外から信用を勝ち得ていることが非常に重要だ。そうでなければ説得力に欠け、受賞者の方に対し非礼にあたる。日本舞踊、舞踏に関しては主導的地位にあるといっていい方が3人以上名を連ねるが、洋舞に関しては現役で幅広く舞台を鑑賞し定期的に書いている方は限られる。とはいえバレエでいえば、商業媒体に定期的に寄稿し各種審査員等も務められる立派な業績を持つ方が、お二方いらっしゃる。その方々が推薦されれば問題ないのだが……。現代舞踊やコンテンポラリー・ダンスに手が回らない状況にあるのは寂しい。
参照:http://kado.seesaa.net/article/185474540.html 舞踊評論家とその周辺(2) 舞踊批評家協会 - 観劇記 〜 No Body No Lid -
今回の選考に関して異論ない。協会賞は3件に絞ってきた。実績含め多くの人が首肯するに違いない選出であるし、新人賞に関しても話題になったり注目されている人が選ばれている印象を受ける。受賞された方々に祝意を申し上げたい。


銀河革命

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怪男児 麿赤兒がゆく 憂き世  戯れて候ふ

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ペテルブルグのバレリーナ―クシェシンスカヤの回想録

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