アゴタ・クリストフ死去、「怪物」、Monochrome Circus

ハンガリー出身の作家で小説「悪童日記」(1986年)によって知られるアゴタ・クリストフAgota Kristof(1935〜)が7月27日亡くなった。
http://www.lexpress.fr/culture/livre/agota-kristof-est-morte_1015695.html
1956年のハンガリー動乱の際、西側に亡命し創作を続けてきた女性で、戦時下を生きる双子の兄弟がノートに記すという体裁で書かれた「悪童日記」は、世界的反響を呼んだ。「ふたりの証拠」「第三の嘘」という続編も書かれ三部作として知られる。
クリストフは戯曲も記しており、「怪物」という作品は、京都を拠点に活躍するコンテンポラリーダンス・カンパニー、Monochrome Circusの主宰者・坂本公成によってダンス化された。クリストフの戯曲とフランシス・ベーコンの絵画をモチーフにして佐伯有香に振付けられたソロだ(佐伯も振付にクレジットされている)。“強靭でしなやかな身体が歪む。いわば「拒否された身体」をヴィジュアル化した作品”(Monochrome Circus HPより)。音響は真鍋大度が手掛け、佐伯の呼吸音から生み出された異色のものだ。

この作品は2006年5月に京都で初演され、同年秋にJCDN「踊りに行くぜ!」に選ばれ各地を巡演した。そして、2008年には、フランス人ダンサーが踊り、アンジェ国立振付センター他で上演されるという「monster project」へと発展する。これまでに日本、台湾、フランスのダンサーが同作を踊っているとか。また、関西を拠点に活動する、きたまり率いるKIKIKIKIKIKIが今春作品委託公演として行ったパフォーマンスの中でも同作品が取り上げられ、KIKIKIKIKIKIの花本ゆかが踊っている。ダンサーを変えて踊り継がれ、上演回数は初演から5年で40〜50回(もっと?)に及ぶとか。コンテンポラリー・ダンスとしては異例といっていい。
Monochrome Circusは、1990年結成。主宰の坂本公成森裕子を中心に「身体をめぐる/との対話」をテーマに国内外で活動を続ける。「掌編ダンス集」と銘打った短編シリーズや東京・パークタワーホールで上演された大作『Float』、ダムタイプメンバーの照明家・藤本隆行や真鍋との協同作業によるマルチメディアパフォーマンス『Refined Colors』などが代表作。ギャラリーや民家などで行う出前ダンス「収穫祭シリーズ」も定評ある。 昨夏には、国際芸術祭「瀬戸内国際芸術祭」に招かれ、直島の集落を舞台にしたサイトスぺシフィックなパフォーミングアーツ作品『直島劇場』を滞在制作した。

このカンパニーの公演は、企画がつねに先進的なうえパフォーマーの練度も秀でている。そして、優秀なスタッフとのコラボレーションによってアートディレクションにも水際立った冴えを見せる。何年も前から文化庁重点支援事業に採択されてもいる。現行の文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)は、最高水準の舞台芸術創造を旨とするものが対象だ。バレエやフラメンコであれば、過去の実績、カンパニーの技量や公演規模によって水準達成の目算は付く。しかし、コンテンポラリー・ダンスや現代舞踊の上演(ことに初演)となると、創造性、先鋭性優先のあまり質的な不安が付きまとう。その点、Monochrome Circus公演は、ダンスだけでなくパフォーマンスを成立させるあらゆる要素の質が粒だっている。玄人筋から一般のダンスファン、それにダンスにも縁のない観客にも訴求できるクオリティがある。先鋭性と質の高さの共存は可能なのだ。後続の多くのダンスカンパニーやパフォーミングアーツ集団は見習うべき点があるのではなかろうか。

東京公演を滅多に行わないこともあって、このカンパニーの活動の全貌を把握する人は少なく、私も管見(演劇舞踊評論の中西理氏のように、ていねいに追っている方もいる)。が、内外で多くの公演やワークショップを行い成果を挙げる、コンテンポラリー・ダンス界屈指の実力派集団といっていいだろう。
photo:(C)Morihiko Takahashi 『直島劇場』2010年9月「瀬戸内国際芸術祭」
「怪物」 演出・振付:坂本公成 振付・出演:佐伯有香

Monochrome Circus 最新作“TROPE”CM


悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

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怪物―アゴタ・クリストフ戯曲集

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