バレエグループあすなろ公演

活きのいい踊り手と、企画力と行動力をあわせ持った制作者・指導者が揃う愛知舞踊界。そのなかでも地道ながら精力的に活動を続けてきた会がある。バレエグループあすなろ。岡田純奈バレエ団川口節子バレエ団の合同公演である。1993年の結成以来、若いダンサーたちが古典と創作両方を踊れる場として設けられた。今回で7回目の開催。“あすなろ”とは「あすは檜になろう」という自身の成長への意思のあらわれである。

第一部はクラシック・バレエ作品として『パキータ』グラン・パが上演された。指導は岡田純奈。パ・ド・トロワ(岩室小百合、高木美月、水野陽刈)、ヴァリエーション(加藤亜弥、内田茜、桑嶋痲帆、河野茉衣)は緊張感のあるなかにも伸び伸びとした踊りを披露。パキータの桐村真里はプロポーションに恵まれプリマの風格を感じさせる。リュシアンの大寺資二はサポートに冴えをみせた。両バレエ団のバレリーナたちの混成。隅々までマナーの行き届いた、清潔感のある舞台は好感が持てる。

第二部は「若い芽のコンサート」。太田一葉振付『SPIRITURE』、岡田真千代振付『フックト・オン・チャイコフスキー』が上演された。前者はMONGOL800の曲を、後者は『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』の音楽をアレンジし使用。各々若い踊り手たちの“踊る喜び”をうまく引き出していた。振付者は川口、岡田の子女。ともに二世としてバレエ団の将来をになう資質十分だ。

第三部は創作作品。川口節子の担当である。川口は名古屋バレエ界のなかでも注目される振付家だ。「バレエダンサーのボディを使ってできるオリジナルな作品創り」を身上(信条)としている。ガルシア・ロルカ原作をショパンの「レ・シルフィード」を用いフォーキン作品を換骨奪胎した『Yerma』、三重苦のヘレン・ケラーを描いた感動作『奇跡の人』、マシュー・ボーン顔負けの“台詞のないミュージカル”のなかに不在の父を通し戦争への怖れを描く『若草物語』などを発表。着想の豊かさと多面的な創作に定評がある。今回、川口が挑んだのはオスカー・ワイルドの『サロメ』。幽閉された預言者カナーンを愛してしまった王女サロメの愛と憎悪が描かれる。才気煥発の彼女にしては思いのほか原作に沿った正攻法。「サロメの、愛と憎悪の代償としての死」を描くことに振付家の主眼はあったように思う。預言者に惹かれ、這い、追いすがるサロメ(安藤可織)と、それを振り払うヨカナーン(ウィルフリッツ・ヤコブス)の絡みが切迫感を持って迫ってくる。振付は両者の感情の起伏をアクションとして示す。安藤の熱演も相俟って見応え十分だった。終幕、所望するヨカナーンの首を得て、狂気と悦楽のなか殺されるサロメ。純粋な愛=死に至る悲劇が強調される。冒頭や終幕には、奴隷・兵士(あるいは過去から現代までに自然淘汰された人々)が登場。いつの時代も不変の、愛と憎しみの果てにもがく存在の象徴だろうか。サン・サーンスの曲を使った点も面白い。陰惨な血の悲劇とは対照的、穏やかなものながら舞台にマッチし場を盛り上げていた。

生徒の指導、バレエ団の運営に加え創作を続けていくことは難しい。来年は川口のスタジオ創設三十周年。2年後には次の「あすなろ」公演も予定される。若い生徒に勉強の機会を与え、地域バレエを発展させる――明確なコンセプトをかかげ、着実に成果を挙げる岡田と川口。今後の活動にエールを送りたい。

(2007年2月12日 名古屋市芸術創造センター)