ローザンヌ国際バレエコンクール 菅井円加が受賞

スイスのローザンヌで行われるローザンヌ国際バレエコンクール( Prix de Lausanne)は15歳から18歳までのバレエダンサーを対象としたものだ。今年は19カ国から79人が参加し、決勝には21人が進出した。クラシックとコンテポラリーを踊り妍を競った。
既報の通り17歳、高校2年生の菅井円加(佐々木三夏バレエアカデミー)がスカラシップ賞とコンテンポラリー賞を受賞した。第1位受賞ということで大きな話題になっている(熊川哲也らが受けた最優秀者に贈られるゴールドメダルは廃されている)。審査員を務めた吉田都によると、菅井は「すべてが良く、審査員9人全員一致の結論です。決勝前日の演技からも成長が見て取れ、現代舞踊ではエネルギーを感じました」とのこと。実際、満場一致といっていい評価を得たようで文句ない受賞。大変喜ばしい。
大手紙やテレビ各社でも大きく報道された。過去にない位の熱狂ぶりである。この10年でみても、贄田萌や高田茜、佐々木万璃子らが上位入賞してスカラシップを受けている。バレエ関係者やファンからすると、1位というのは確かに快挙ではあるもののここまで大騒ぎするほど?とも思う。「将来性」を評価するコンクールであり、「その後」が何よりも問われるからだ。だから、現在のフィーバーには、いささか戸惑ってしまう。いくらなんでも、ここまで持ち上げられるのは異常という気がしないでもない。
日本の関係者のコメントのなかでは、谷桃子バレエ団出身でNBAバレエ団の重鎮・久保幸子の評が具体的で分かり易い。「体の芯がしっかりしていて、自分の脚で立つことができるバレリーナ。心の軸も安定しているのでしょう」「クラシックのみならずコンテンポラリー(現代舞踊)で評価された点が画期的。表現力が弱いとされた日本のバレエも新時代に入ったのだと、感無量です。海外からの出場者は大半が国立バレエ学校の生徒。小さな個人スタジオというハンディを覆して、これほどの成果を上げた本人と先生、周囲の頑張りを誇りに思います」(毎日新聞)。
菅井は昨夏の埼玉等では上位に入らなかったものの全国舞踊コンクール、こうべ全国舞踊コンクールはじめとする国内のコンクールで第1位を得ている。国内コンクールでの評価が低かったというような声を見聞したが、それは違う。2010年度の全国舞踊コンクールジュニアの部では「シルヴィア」のヴァリエーションを踊った。決選を観たが、通常コンクールで踊られる振付とは違って意表を突かれた覚えがある。が、どこかで見た覚えがあるな、と思い返した。アシュトン版のもの?そのこともあって彼女のことを認識していた。確かに身体の軸が非常にしっかりしている。その後の神戸でも1位を獲得。
菅井はスタイルは良い方とは言えないが「表現力」を評価されている。が、キャリアある指導者・実演家に聞くと、彼女の演技特にクラシックに対しては評価がやや分かれる。「音楽性がある」という見方もあれば「そこまで評価されるほど?」という見方も。でも、誰が何と言おうとも一定以上の資質の持ち主であるのは疑いない。将来、どう化けるか分からないし、踊りに癖あるにせよ改善は難しくないはず。バーミンガム・ロイヤル・バレエ付属学校への留学を希望しているとか。さらなる研鑽と飛躍を期待したい。
そして、今回のフィーバーに関して述べておきたいことがある。わが国では、コンクール熱が年々増し、毎年のように新たなバレエコンクールが創設されている。勉強の場としてコンクールを利用するのであれば構わないが、今回のフィーバーによって、入選すること自体が目的と化すような傾向が助長されるのであれば困る。そして、菅井がプレッシャーに負けないで大成してくれることを願う。今のフィーバーぶりでは、熊川哲也吉田都クラスの名実備わったスターにならなければ、というような感じですらある。そんなことはあまり気にしないで、自分のペースでのびのびと成長することを願う。
熊川哲也毎日新聞の取材に対し、こう述べた。ローザンヌについて「世界を目指す若きダンサーたちが夢から覚め現実を直視する初めての試練の場だ」。菅井には「アーティストとして通過点であることを心に留め、真にプロフェッショナルなダンサーとして世界に羽ばたくことを願っている」。おおらかな姿勢で菅井の成長を見守りたい。

2012ローザンヌ国際バレエコンクール一位受賞の瞬間から

Madoka Sugai Contemporary 2012ローザンヌ国際バレエコンクール