平成24年度新進芸術家海外研修員について

文化庁による「新進芸術家海外研修制度」は美術・音楽・舞踊・演劇・映画・舞台美術等・メディア芸術の各分野の新進芸術家の海外研修をサポートする制度である。現在、1年派遣・2年派遣・3年派遣・特別派遣(80日間)の4種類があり、平成23年度末までに3,008名を派遣してきた(文化庁HPより)。
いわゆる在研制度を利用して海外留学するのは昔から“狭き門”といわれ、舞踊部門ではコンクール等での実績十分なエリート中心に選ばれてきた。近年予算枠が小さくなったこともあり、採択率をみると、ますます超激戦のようだ。
昨年の採択結果について、ここで解説したところ反響があったので、今年も遅ればせながら紹介しておく(一部のみ)。
平成24年度新進芸術家海外研修制度採択一覧
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/05kenshu/pdf/24_shinshin.pdf

舞踊部門
1年(350日)長内裕美コンテンポラリーダンスハンガリーブダペスト
1年(350日)熊谷和徳/タップダンス/アメリカ・ニューヨーク
1年(350日)永橋あゆみクラシックバレエ/ドイツ・ドレスデン
1年(350日)今井智也クラシックバレエ/オーストラリア・メルボルン
1年(309日)西岡憲吾クラシックバレエ/イタリア・ミラノ
1年(335日)清水美由紀/バレエ・コンテンポラリーダンス/ドイツ・ウィースバーデン
2年(700日)大鐘(旧・富田)彩千恵/スペイン舞踊(フラメンコ)/スペイン・ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ
2年(700日)坂田守/現代舞踊・振付/フランス・パリ
特別(80日)清瀧千晴/バレエ/ロシア・モスクワ
1年(15歳以上18歳未満・350日)川合十夢/モダンダンス/スイス.ローザンヌ
1年(15歳以上18歳未満・350日)/吉田合々香クラシックバレエ/フランス・パリ

1年派遣は京都バレエ専門学校経てミラノ・スカラ座バレエ学校に学んだ20歳そこそこの西岡を別にすると20代後半から30代前半にかけての実力者ばかりである。
バレエでは老舗・谷桃子バレエ団のプリンシパルの永橋あゆみと今井智也が選ばれたのが目を惹く。
清楚な魅力と華やかさを兼ね備えたプリマで人間性の良さにも定評があり、これから絶頂期に入ろうとしている永橋、絵にかいたような甘くナイーヴな王子様役が良く似合う今井。売れっ子の二人が、いまなぜこのタイミングで?とも感じるが、谷バレエ団は2009年〜2010年に続いた計6回の創立60周年記念シリーズを盛大に催し団や団員が数々の舞踊賞を受けたものの、このところ自主公演のペースが落ち着いてきた。今年は文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)による新春公演『シンデレラ』以外には4月に若手公演として芸術文化振興基金を得て『白鳥の湖』を上演しただけである。折からの文化予算縮小もあり次年度以降も公演数の増加は期待できないと思われる。谷バレエには新世代もどんどん出て来つつあり、このあたりで海外の風に触れて気持ちを新たにし、落ち着いて学ぶのも悪くないかもしれない。とはいえ永橋の留学先がドレスデンというのには意表を突かれた。何を学んでくるのか注目したい。
コンテンポラリーでは、長内裕美と清水美由紀が選ばれた。ともにお茶の水大学出身で長内が1年先輩にあたる。
長内は学生時代から大島早紀子主宰のH・アール・カオスに出演。ニジンスキーの再来と言われるカリスマ・ダンサー白川直子に憧れ尊敬しているようだ。同級生の古家優里のプロジェクト大山の活動にも参加した。2009年の横浜ダンスコレクションRにて「審査員賞」。翌年の同コンペにて「若手振付家のための在日フランス大使館賞」「MASDANZA-EU賞」受賞。2010年第15回MASDANZAソロ部門第2位。2010年には半年間フランスのアンジェ(CNDC)にてレジデンス制作を行った。ダンサーとしても振付家としても想像力豊かで魅力的な存在。『NAMIDA』『SKY BAUM』などの佳作がある。優しさ穏やかさと不穏さ痛切さの同居する独特で不思議な世界観を構築しつつある。来たる9月14、15日、離日に際して初の自主公演を行うが、本人のblogによると“人生ラストの日本公演だと思って挑みます”。そうならないにせよ、そのまま欧州等を活動の中心にしてしまうかもしれなのでは?と思わせるくらいの実力と精神力の持ち主なのだ。ダンスに身を捧ぐ意志が半端ではないことの顕れとも言えるだろう。
清水はバレエダンサーとして日本バレエ協会公演等に出演している。安定した技量を持つだけでなくダイナミックかつ繊細な表現力を武器とする。好素材であり振付者の創作欲を刺激する存在のようだ。仄聞するところ、大学の同級生で盟友的存在の山口華子(平成23年度の在外研修員でドイツ・ミュンスターに留学)が振付けたソロを踊る清水を観た富山の現代舞踊の実力者・和田伊通子が「華ちゃんよりも自分の方が清水を活かすことができる!」と意気込み「夕鶴」をテーマにしたソロを発表。それがじつに見事な仕上がりであった。また、その作品が出品された創作コンクールの審査員であり清水の師である舞踊教育界の重鎮・片岡康子が負けじとばかりに自ら主宰する「DANCE HOUSE」公演で清水にソロを振付ける。そして、これがまた大変な力作だった。留学先はウィースバーデンというからコンテンポラリー・バレエの名振付家シュテファン・トスの元で学ぶのだろう。数年前には同じく在研でラ ダンス コントラステなどで活躍する竹内春美が留学していた。トスの下では、この秋からドイツのレーゲンスブルグ・バレエの芸術監督を務める新世代待望の気鋭振付家・森優貴が長らく踊っていた。バレエ&コンテに秀でた清水が研鑽を積むにはもってこいといえるのでは。
タップダンスの熊谷和徳は斯界のトップ・ダンサー。19歳でニューヨークへ単身渡米。来日公演も行われたブロードウェイ・ミュージカル『ノイズ/ファンク』のオーディションに合格(ビザの関係で出演出来ず)。帰国後は全国各地で公演やワークショップを行う。メディアへの登場も多い。妻は姉さん女房となる歌手のカヒミ・カリィである。
2年派遣の坂田守は現代舞踊界きっての俊英ダンサー。能美健志に学びモダンダンスにおける貴重な男性ダンサーとして頭角を現すが、近年は創作に才気を発揮する。公私のパートナー長谷川まいこと組んだデュオ『amulet』は男女の愛の距離と深遠を凄絶なまでに厳しく描き出した傑作で、本年度の「全国舞踊コンクール」創作部門第1位を獲得している。長谷川と現代舞踊きっての華のあるスターとして注目あびていた池田美佳とともに自主公演も催すなど積極的だ。本格振付者として大成してもらいたい。
特別派遣の清滝千晴は牧阿佐美バレヱ団の若手気鋭で主役を務める機会が増えてきた。既に在研(1年枠)を使ってモスクワ舞踊学校に1年間通っている。さほど間を置かず再びモスクワに学ぶということになる。若手女性ソリストを中心に人材豊富な牧バレエのなかでも男性主役級は貴重なだけに、さらなる研鑽を積み飛躍することを望む。
永橋あゆみ 出演 AI - INDEPENDENT WOMAN

Yokohama Dance Collection R 2010 Video 長内裕美Yumi OSANAI


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